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終電には、まだ時間があるはずだった。
僕のスマホはとっくにバッテリー切れで、正確な時間は分からないけど、肌感覚で分かる。人の流れは、今のところ途切れていない。
駅の南側は、北側と違って居酒屋やバーが多く、平日でも赤ら顔の大人たちでとても賑やかだ。だけど終電間際の0時を過ぎると、急に閑散としてしまう。
その光景を何度も見てきた。
みんな、家に帰りたいのだ。
僕も……やっぱり帰らなくちゃならないんだろうな。いつものように。
パーカーのポケットからカギを取り出して、ぎゅっと握った。
駅構内のコインロッカーには、塾のテキストがぎっしりと詰め込まれている。塾は2時間前に終わったのに、まっすぐ帰る気になれずに、ロッカーに突っ込んで、駅周辺をぶらぶらした。
分かってる。
そんなことをしても、気晴らしになんかならないことを。
両親は、僕の成績が上がらないことを、特に責めたりしなかった。国立の有名大学に行った、二つ上の兄と僕を、比べることはしなかった。
だけど、それが余計につらくて、みじめで、息をするのが苦しかった。
高校でも、塾でも、家でも。
終電で帰ったら、両親は叱るだろうか。
それとも、気を使って、なにも言わないのだろうか。
真っ暗な空から、ひらひらと白いものが舞い降りてきた。傍を歩いていたカップルが、白い息を吐きながら「雪だね」と、当たり前のことを言い合って笑う。
なんか幸せそうですね、と嫌みの一つも言いたくなったけど、パーカーの左の腕に落ちてきた雪片が、本当に雪の結晶の形をしているのに驚いて、しばらく歩道に突っ立って眺めていた。
何だろう、この時間は。
うしろにも前にも進まない。そんな苦しさ。
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