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6
「愛奈の兄の佐々木は、小学六年生で暴走族に加入したんだ。
盗んだ単車を、原型がわからなくなるぐらい滅茶苦茶に改造して乗り回していたようだな。当然だが無免だ。
運転は無茶を通り越して無謀。度胸試しと称して、ノーヘルで国道や産業道路を時速百キロで飛ばしてたらしい。しかも反対側の車線を逆走だ。危険運転どころか、交通テロだよ。
度胸の良さと、命知らずの根性が認められて、佐々木は十二歳にして特攻隊長に抜擢された。
特攻というのは、赤信号の交差点に真っ先に突入するもっとも危険なポジションだよ。
それにしても、十二歳だぞ、十二歳。おそらく全国レベルで見ても、暴走族史上最年少の特攻隊長だったんじゃないかな。
まさに我が世の春だ。
だが佐々木の楽しい暴走族生活は、そう長くは続かなかったよ。
原因は女だ。破滅の陰にはファム・ファタール――運命の女――あり。どこの世界も同じだな。
暴走族の総長は十八歳の無職の男だったんだが、顔だけみればなかなかの男前。トルエンの密売で稼いでいたから、それなりに財布を膨らませていた。顔の良い男と金回りのいい男には女が寄ってくる。
ある女がいた。その女がまたこの世のものとも思えないほどの美人だった。背が高くて、化粧も上手くて、胸なんかもとんでもなくデカくてお色気バッチリ。十九や二十歳ぐらいに見えたらしいんだが、実はその女は小学五年生だった。それが総長の女だよ。佐々木にとってのファム・ファタールさ。
魔が差したんだろうな。佐々木はやってはならないことをやらかした。総長の女に手を出したんだ。
すぐにバレて、袋叩きになった。木刀やら金属バットで滅多打ちだ。
怖いもの知らずの佐々木も、さすがに生命の危険を感じたんだろう。
で、どうしたか。
抜けたんだよ。部活をやめる感覚だったんだろうな。佐々木は族を抜けたんだ。
だが族を抜けたつもりになっていたのは佐々木ひとりだけだ。周りがそれを認めないし、許さない。あの手の組織は入るよりも抜けるほうが難しいんだ。
総長は怒り狂った。そりゃ怒るだろう。自分の女を寝盗った特攻隊長佐々木を、本当はぶち殺して山に埋めてやりたかったところを袋叩きにしただけで水に流してやったんだ。最大限の恩情をかけたつもりが、感謝されるどころかいきなりバックレだ。恩を仇で返されたように思えたんだろう。
佐々木はなぜ集会に来ねえんだ。首に縄つけてでも引っ張って連れてこい!
総長は暴走族の構成員――百人近くもいたらしいぞ――を並べて檄を飛ばした。
暴走族の連中は容赦がないし、また実際にしつこかった。自宅にまで押し掛けてきた。佐々木を無理やり連れ出すために。
暴走族も必死さ。佐々木を総長の前に引きずり戻さないと、今度は自分達が木刀や金属バットをしょわされるんだからな。
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