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佐々木の親は、当然のように110番通報をしたんだが――聞いて驚くなよ――警察は、住所を間違えて、ぜんぜん違う別な場所にパトカーを出動させたんだ。
結局のところ、警察は最後まで佐々木宅には来なかった。
わざとだよ。
警察は住所をわざと間違えたんだよ。警察というのは今も昔も変わらない。仲間に殺されそうになって助けを求めてきた暴走族やアカの過激派に対して、警察はそういう露骨な嫌がらせをよくやるんだよ。
佐々木は、まさに絶体絶命だ。
ところが、だ。
運が良かったと言うべきか。それとも悪い巡り合わせと言うべきなのかな。
佐々木の隣家に、引っ越してきたばかりの住人がいたんだが、なんとまあ驚くなかれ。それが龍応会の幹部だったんだ。
その善意の隣人が暴走族を追い払ってくれたお陰で、佐々木は暴走族との縁を絶ち切ることが出来た。その代わりに今度は龍応会との絶ちがたい縁が出来た。悪因縁ってやつだな。
その後佐々木は、ボクシングジムに通ったり、格闘家に弟子入りしたりとか、紆余曲折を経て、結局は中二の夏頃から龍応会の事務所に顔を出すようになった。
その頃だな、総長と幹部三人の合わせて四人が他殺死体となって山中で発見されたのは。大雨のせいで山が土砂崩れ。それで死体が麓にまで流されたんだ。
発見された四人が四人とも同じように金属バット状の凶器で頭蓋をぶち割られていた。警察は捜査本部を立ち上げたが、ただ立ち上げただけだ。被害者が暴走族とあっては、警察も本気で捜査などしない。むろん未解決さ。
だが巷では、四人の族を殺ったのは佐々木だともっぱらの噂だった。総長が消えた後、総長の女は佐々木に鞍替えしてちゃっかりと佐々木の女になってたからな。まあ佐々木が総長を殺したと噂になるのも当然といえば当然か。
実際、殺ったんだろう、佐々木は。
殺害現場の証拠隠滅やら死体の運搬やら遺棄なんかは龍応会が一通りやってくれたんだろうが、直接手を下して殺ったのは他ならぬ佐々木自身だ。間違いない。
まあそれはともかくとして。
佐々木は中学にも行かなくなった。ヤクザどもに揉まれて極道の世界にどっぷり首まで浸かり、十六歳で盃をもらって、龍応会の正式な組員だ。
血の繋がった実の親からは勘当だ。
まあ、当然だがな。
それが、佐々木愛奈が四歳か五歳ぐらいの頃、遥か昔、三十五年ほども前の話だ」
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