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「すべての原因は、虎の威を借りた佐々木愛奈にあったわけか。それはわかったが、なんでまた佐々木愛奈は屋久と久藤を操ってまでしてわざわざおまえを標的にしていじめたんだろう」
「それは本人に訊いてみなければわからんな。だが今となってはもう、佐々木愛奈の事情なんかどうでもいい。理由次第では許してやろうとか、そういう生ぬるい気分にもなれないしな」
二十五年前、中学生のころの佐々木愛奈は、わざわざ他校の男子たちが覗きに現れるほどの美少女だった。あの当時の愛くるしい佐々木愛奈がいじめの黒幕。何かの間違いであって欲しいのだが、きっとそれは間違いなどではないのだろう。
「佐々木愛奈が、いじめの黒幕なあ」
「納得いかないみたいだな」
「うーん」
「当時、佐々木愛奈が学校でいちばんの美人だったからか」
「いや、まあ、な」
「だったら、美人じゃなきゃ納得なのか。たとえば駒ヶ崎希恵子なんかが黒幕だったら納得か」
駒ヶ崎希恵子はオートバイのヘルメットみたいな髪型をしたまるで垢抜けない印象の女子生徒だ。屋久と久藤などは、駒ヶ崎希恵子のことをブスだのヘルメットだのとからかって嘲笑していた。
「駒ヶ崎。そんな、まさかだろ」
「だよな。駒ヶ崎希恵子は変な髪型だったが優しくて心が美しい女子生徒だった。彼女が毎朝のように教室の花瓶に花を生けていたのを僕は知っている。僕が言いたいのは
――見た目に騙されるな――
ということだ。とにかく黒幕は学校でいちばん顔が良かった佐々木愛奈だ。この事実は何があっても揺るがない」
「わかったよ。あまり興奮するな」
「僕は興奮などしていない」
「いや、してるだろ」
俺の言葉に若原敦士は答えなかった。興奮している証拠だ。だが今は若原敦士が興奮してようがしてなかろうが、そんなことはどうでもいい。俺は思い出したのだ。二十五年前、教室で屋久と久藤と三川の不良軍団と揉めて一触即発になった原因を。
原因は、駒ヶ崎希恵子のヘルメットみたいな垢抜けない髪型だった。
駒ヶ崎希恵子に対する屋久たちの冷やかしとからかいが、端から見ていてあまりにも度を越していた。だから腹が立った。頭に血がのぼった。腹が立ったついでに、俺は欲を出した。女子たちの前で正義感を演じたくなったのだ。
屋久たちに「やめろ」と言ってやった。当然のように揉めた。その様子を遠目に見ていた若原敦士は勘違いしたのだろう。いじめられていた自分のために、俺が身体を張って屋久らと戦ってくれているのだと。
だが俺はそんな美しい心の持ち主ではない。真相は、変な髪型をからかわれていた女子生徒を助けるふりをした、モテたいがために。ただそれだけだ。女子が大勢いる教室でカッコつけたかっただけだ。動機があまりに不純だ。まるで美しくない。俺の中学時代の汚点だ。黒歴史だ。女子からモテたかっただけ。若原敦士など眼中にもなかった。当然だが、この事実を若原敦士には絶対に知られたくない。俺はこの事実を墓場まで持ってゆかねばならぬ。
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