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「なあ、若原」 「何だ。まさか佐々木愛奈への制裁を思い止まれなんて言うんじゃないだろうな。却下だぞ」 「若原」 「いじめの恨みは、たとえ千年の時が過ぎようとも消えることはない。それを佐々木愛奈に思い知らせてやる」 「おまえの気持ちはわかる。そうだよな、そのとおりだよ。だからその思いを、佐々木愛奈に言葉で話して聞かせてやればいいんだよ。それで終わりにしろ。なあ若原、そうするべきだよ」 「呆れたね。おまえの精神年齢は中学三年生で止まったままなのか」 「若原」 「いじめの罪は重い。死刑だ。いじめをする人間は殺される覚悟を持つべきだ。佐々木愛奈も黒幕になって不良どもを操って僕をいじめた時点できっといつかは殺されるということを覚悟していたはずだ。もしもそんな覚悟をしておらず、因果応報が想定外だったというなら、そんな生ぬるい大馬鹿者にはなおさら生きている資格がない。そんなやつは死ねばいい。だが綺麗には死なせてやらない。破壊力のあるマグナム拳銃で自らの顔面を撃ち抜かせてやる」 絶句する俺を尻目に、若原敦士は運転席に顔を向けた。 「アスカ、おまえはどう思う」 「会長の仰るとおりかと思います」 「だよな。だが斎藤は僕の考えがお気に召さないらしい」 アスカはそれには答えずに、ただ前を向いてステアリングを握っている。 携帯電話が着信音を鳴らした。若原敦士の携帯電話だ。若原敦士はそれを取って耳に押しあてた。若原敦士は黙って電話の声に聞き入っている。やがてすべて聞き終えたのだろう。 「そうですか、わかりました。猿田先生、どうもお疲れ様でした」 若原敦士は携帯電話を懐に仕舞い、そして深く息を吸って吐いた。 「屋久と久藤がそれぞれ白状した。やはりふたりとも中学生の頃に佐々木愛奈から脅されていたらしい。龍応会が怖くてたまらなかったんだそうだ。今ふたり揃って泣いて許しを乞うているそうだよ」 「屋久と久藤と、やつらの手下の三川は許してやれ。なあ若原。あいつらに慈悲の心を見せてやれ」 「ああ、それはもちろんだ。あいつらも結局は被害者だからな。王は慈悲の心を持ち合わせているものだ。僕は真の王でありたい」 言い終えてから、若原敦士は眼差しを暗くした。琥珀色だった瞳の色が、ふいに洞窟のような色味を帯びた。 「だが佐々木愛奈だけはだめだ。たとえ天地が引っくり返ろうと、あの女だけは許さない。絶対に」
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