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何ら変わりのない放課後
—1—
「横瀬仁くん、人間ってどんな味がするのかな?」
クラスでも影が薄く、友達のいない井上蔵理が突然耳元でそう囁いてきた。
「は? そんなの分かる訳ないだろ」
「どうしたの、仁?」
同じサッカー部の丸岡がオレの声を聞いて駆けつける。
「いや、井上が人の味が気になるんだってさ」
「気持ち悪っ。お前、そんなことばっかり言ってるから友達できないんだよ」
丸岡がなかなかに辛辣な言葉を浴びせる。
「丸岡くんは、太ってるから食べ応えがありそうだね」
それでも井上は普段の調子を崩さない。
至って真剣な眼差しで丸岡の腹部を見ていた。
「ダメだ。話にならない。仁、行こう」
「そうだな」
丸岡と2人で教室を出る。
今日はテスト期間で部活は休み。
この後はサッカー部のモテ男、金田の家で勉強会兼ゲーム大会が開かれる予定だ。
「おーい、仁! もう帰るのか?」
丸岡と廊下を歩いていると、教室から出てきた金田に呼び止められた。
「お前の家で勉強会するんだからいい加減早く帰るぞ!」
金田が教室で女子グループといちゃいちゃしていたことは知っている。
モテる男の特権だから仕方がないけど、公の場で見せつけられたら良い気にはならない。
だから無理矢理にでも金田と女子を引き剥がすことにした。
「悪い。俺、横瀬たちと約束あるから帰るわ」
「分かった。私たち、この後芽依の家でお菓子パーティーをするんだけど、良かったら遊びに来てね」
「お、いいね! んじゃ、行けたら行くわ」
「えー、それ絶対来ないやつじゃん」
金田と女子との楽しそうな会話が廊下まで漏れている。
オレと丸岡は羨ましそうに聞いていることしかできない。
「横瀬くん! よかったら横瀬くんたちもお菓子パーティーに来てね!!」
クラスのマドンナ的存在、虻川芽依が教室からひょこっと顔を出してオレと丸岡に手を振ってきた。
「お、おう」
オレも丸岡も予想外の誘いに固まることしかできなかった。
「ごめん2人とも、待たせたな」
「いや、全然」
先程まで金田に抱いていた嫉妬心のようなものは完全に吹き飛んでいた。
むしろ今では感謝の気持ちさえ覚えている。
まさか、芽依から誘われるとは。金田と友達でよかった。
悲しいことに男とは単純な生き物なのだ。
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