66人が本棚に入れています
本棚に追加
#07 恋とリトライの始まり
小夜は元来、『思い立ったが吉日』な性格ではないと自覚している。
しかし、再びピアノに触れられたことで自信がつき、気持ちが前向きになった。
気持ちが上向くと、仕事もいつも以上に頑張れる。何もしたくないはずの休日の予定も立てたくなる。
「月岡さん、今日はなんかキラキラしてますね」
奏介の出勤時間が近づき、受付でピンと背を伸ばした小夜を安坂は眩しそうに眺めている。
「ありがとう」
「はぁ……」
ニコッと笑いかけると、彼女は世にも不思議そうな顔をして小首を傾げた。噂好きの困った後輩のことも、今日は何を言っても微笑ましく感じるだろう。
しばらくして奏介が自動ドアを潜ってくると、小夜の気持ちは今日一番に華やいだ。
「おはようございます!」
隣の安坂を上回る声量と笑顔で挨拶した小夜に、彼は軽く目を見張って固まった後、いつものように落ち着いた微笑みを返した。
「おはようございます。元気だね」
「はい! 社長も……」
そこで、パタリと小夜の声が止む。
──社長も……?
一体全体この口は何を言おうとしたのだ。
──かっこいいですね、とか?
にやけそうになる口元を手で隠す小夜を、奏介が不思議そうに見つめている。
最初のコメントを投稿しよう!