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風呂上がりに冷蔵庫を開けたのだが、冷やしておいた筈のビールがない。
今日は『ビールの日』と聞いて、仕事から帰ったら飲むぞと、朝から冷やしていたのにどういうことだ?
冷蔵庫の中はむろん、冷凍庫まで探し回ったがやはりない。
諦めるか、今から冷やして後で飲むか。あれこれ考えていたら、奥の部屋から缶が開く音がした。
行ってみると、仏壇の前に缶ビールが置かれているのが見えた。
近づいて缶を手に取ったが、中は空っぽだ。でもさっきまで冷蔵庫に入っていたかのように冷たい。
ふと、とあることを思いだし、俺は仏壇の奥に飾られている親父の写真を見た。
口元が白い。間違いなくビールの泡だ。
アル中というものではなかったけれど、親父は無類のビール好きだった。
親父がビールの日にビールを飲まないなんてありえない、か。
やっぱり諦められないから、今から冷やして、俺も後で飲むよ。
そう思った俺の視線の先で、写真の親父がいつも以上ににっこり笑った。
ビールの日…完
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