宇宙携帯:パン・ギャラクシー

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宇宙携帯:パン・ギャラクシー

 星間航行船団に動きがあったのは、初観測からおよそ一週間後、本来ならば満月が煌々と地上を照らす真夜中のことだった。僕は月のない、星でいっぱいの夜空を見上げていた。するとそれまで完全に月の光を遮蔽していた円形の壁に、対極中の碁盤のような、白黒のモザイクが見え始めた。  僕の目には、陣形が変わることにより生じた隙間が月光を透過して、白く輝いているように見えた。黒い部分はやはり、無数の船が作り出す影だろう。  ほんの数分間で、夜空に既視感(デジャ・ヴ)のある、正方形の白黒まだら模様(ドット・パターン)が完成した。 「QRコードじゃないか?」  気がつけば僕は、スマートフォンを月にかざしていた。カメラの捉えた画像から音声が再生される。僕が住んでいた地域の標準言語を使用した、大船団からのメッセージが流れた。 「地球の皆さん、全宇宙と繋がりませんか? 汎銀河通信端末(パン・ギャラクシー)を、申し込みからわずか1ミリ秒でお届けいたします。今なら初期費用無料で、さらに期間限定30G・B(ギンガバイト)もついてきます……」  言われるがまま画面に表示されたURLをタップした向こう見ず――僕のことだ――の手中に、まばゆい光とともに新品のスマートフォンが現れた。瞬きをする間もなかった。 「あなたの手に、森羅万象(ユニバース)をお届け致します」  どうやら直接的な危険が無いと分かると、周囲にいた人々も僕に倣った。スマフォを持たない人でも、誰かの端末を借りれば自分だけの汎銀河通信端末(パン・ギャラクシー)を手に入れることができた。  それは早くも一年前のこと。あの夜、世界中で同じことが起きた。結局、太陽系の第三惑星が自転でひと回りする間に、「地球人」という概念は消失してしまった。  今では僕を含め、この星の誰もが宇宙人だ。 (了)
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