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床に伏せたまま、この時間に誰が、と考えを巡らせる。宅急便が来る心当たりはない。
背後でゆっくりとドアが開いた。そうだ、鍵をかけ忘れていた。紘睦は息をつめた。
「紘睦ー……うおっ」
うかがうような声のあと、驚きとともに靴底が地面を擦った音がした。え、なんで、と思う。しかもこんな、床に這いつくばってダイイングメッセージでも書きそうな間抜けな格好のときに。
「紘睦……?」
緊張した様子でこちらを伺っている。要らぬ誤解を生みそうで、恥ずかしさを無視して返事をした。
「櫂成」
空気が緩んだ。床に手をついて起き上がる。身体が少し痛い。一瞬だと思っていたが、長い時間寝てしまっていたのだろうか。
「なにやってんの」
「……ひるね?」
昼寝……と櫂成がおうむ返しに呟き、続いて玄関のドアがゆっくりと閉まった。周囲が暗くなり、気まずい空気に沈んだ中、紘睦の横を通る気配と足音がして、ぱっと眩しい明かりがついた。暗がりでもスイッチの位置がわかるほど、櫂成は我が家を知っていたのか。
ちょっと驚きつつ靴を脱ぎ、揃える紘睦の背後で、櫂成が放り出してあった通勤鞄を拾う。そのまま紘睦の横にしゃがみ、顔を真剣な表情で覗き込まれた。
櫂成の綺麗な眉間が目に入った。理想的な厚みの唇が物言いたげにかすかに開き、閉じる。
状況も忘れて思わず見惚れていると、大きな手のひらが顔の前を覆い、なんとなく目を閉じた。
「熱い」
手を額に乗せてから、不服そうに呟く。櫂成の感触は気持ちよく、このままでいたいと思ったが、すぐに離れていった。
「今日は駄目だって言ったのに」
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