雨ふり、のち、君

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 黙々と食べる間、櫂成は頬杖をついて紘睦を眺めていた。 「今日は泊まってく」  なにげない調子でふいに言った。 「え……何も構えないよ」 「病人にそんなもん期待するか」  それでは紘睦に飯を作って寝るだけになってしまうではないか。 「客用布団、借りるぞ」 「いいけど」 「よし。全部食べたか? 食べたら寝ろ」  空なのを確認して、櫂成が土鍋と食器を持って立ち上がる。 「なら布団を出さなきゃ」 「知ってるって。勝手に使うぞ」 「……うん」  有無を言わさぬ雰囲気に押されて、頷いてしまう。帰りたくない理由でもあるのかと少々勘繰ったが、考えるのももう限界だった。座卓に手をついて立ち上がった。  ふらふらしながら歯を磨いて、手すりを伝い階段を上った。  二階は二間あり、元々子供部屋だった手前を寝室にしている。名残の学習デスクは祖父の趣味による濃いブラウンで、大人になっても使える、と言われその通りになっていた。  息をつきながらベッドに腰を下ろし、はたと気がついた。櫂成の着替えがない。横になる前に持っていかなければ。引き出しをあさっていると、おい、と低い声が降ってきた。 「なにやってんだ」 「櫂成の、着替え」  フリーサイズのTシャツとサイズを間違えて買ったスウェットを引っ張り出す。背後で櫂成のため息が聞こえた。 「悪い。逆に気、遣わせて」 「これだけだよ」  着替えを渡し、今朝整えた掛け布団をめくる。横になり布団をかぶって身体をもぞもぞと動かして、体勢を整えた。  ベッドに収まった紘睦の枕元に櫂成が立つ。なんだろうと見上げていると、首の付け根あたりに手を差し入れられ、持ち上げられた。顔がすぐ近くまで迫り、頬に熱が灯る。何をしてるんだとと混乱している間に、頭がやわらかく冷たい感触の上に着地した。
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