雨ふり、のち、君

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「気持ちいい……」  冷却枕を持ってきてくれたのか。櫂成が紘睦の額に手を当てた。 「連絡したときに何で言ってこないんだよ。むちゃくちゃ熱いぞ」 「一人でなんとかなるし……」  具合が悪ければ、そっとしておいてほしいタイプだが、櫂成の手は気持ちがよかった。ずっとこのままで、とねだりたくなるほどに心地いい。  指で半分隠れた視界から櫂成の顔を見上げる。労わるような眼差しをの合間に数日前の男といた後ろ姿がちらついて、寝返りを打つふりをして顔をそむけた。額にあった手が離れていく。 「なあ、『だ』って何だ?」  唐突すぎて意味が掴めなかった。 「だ?」  だ、で始まる言葉を言えということだろうか。 「だ……だ……大根?」  櫂成がブッと吹き出してベッドに額を伏せた。 「大根て……その体調でも食い気かよ。まだ食べんのか」 「腹は減ってないよ、おかげさまで。大根じゃだめなのかよ」 「色気ないな。他にないのか。大好き、とかダーリン、とか」 「どの面で言ってんですか」 「この面」  なぜか指で眉間をぐりぐり擦られる。そのまま眉間を押し上げ、眉をハの字にさせられた。ヤメロと櫂成の手を払おうとし、その手をまた掴まれる。妙な押し合いになりかけたが、紘睦の方が即座に負けた。 「今日の返信、だ、一文字だった」 「え」  入力に失敗したのに気づかず送信したのだ。予測変換に頼ったのがいけなかった。大根とか言ってしまい、かなり恥ずかしいが、知らぬふりをした。 「あれは『駄目』だよ。変換間違えた」 「だよな」  櫂成が小さく笑う。この場合それしかない気もするが。
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