雨ふり、のち、君

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「まさか、それ確認するために来たとか」 「ま、来て正解だった。もう寝ろ」  そう言って枕元のリモコンを取り、シーリングライトを何も聞かずに保安灯に変える。紘睦は真っ暗な場所で眠れない。 「おやすみ」  ドア枠に手を添え、軽く頭を下げて部屋を出る。 「……おやすみ」  扉が閉まり、階段を下る足音がしてやがて消えた。紘睦はゆっくりと仰向けになった。  誤送信の意味が気になるなら、そう返信すれば済む。なぜわざわざ来たのだろう。 「暑い……」  布団をはぎたいぐらいだが、肩まで引き上げて寝返りを打つ。雨が少し強くなったようで、地面を打つ音が続いている。  櫂成が同じ屋根の下にいてくれるのが嬉しい。泊まると言ってくれてほっとしていた。けれどただの友人と思っているなら、ここまでするだろうか。付き合っている人はいないと櫂成は言っていたが、数か月前のことだ。あの隣にいた男は新しい恋人か、思い人か、どこまでの仲なのだろう。  自分の呼気が熱い。疑念が薄い羽で紘睦を撫で、また消えていく。単純に喜べばいいのに。喜べ。できない。手を伸ばすのが苦手だ。櫂成がもう他の人のものなら、尚更できない。  考えが意識の浅いところに浮上しては消える。  少し眠り、目覚めると枕がぬるくなっていた。そんなに眠っていない気がするけれど。  そう思いながらまた眠りに落ちる。次に浅く目覚めたときには、枕が冷たくなっていて、ああなんだ、さっきのは気のせいだったのかと、安心してまた眠った。  ずっと雨の音がしている。  高校一年の夏休み、三人で海へ遊びにいくことになった。彼が夏風邪を引いて寝込んでしまい、二人になった、と櫂成から連絡があった。
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