山神ダンデム

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 別に興味はないけれど———と、支度をする母さんを見ながら思う。妙な噂に付き合うほど能天気じゃない。おれはしっかり現実を見ている。母さんに言われるがまま勉強し、家から近い国立大を目指し、いい大人になるための階段を着実にのぼっている。  そんな今では大好きだったギター作りも、ただの趣味に降格。もちろん、将来の職業にしようなんて思っていない。好きなもので食べていけるほど世の中は甘くない。  なのにクラスのみんなは———。  服が好きだから服飾の学校に行くとか。音楽が好きだから音響の大学に行くだとか。絵が好きだから美大に行くとか。安定した仕事に就くためというよりは、好きなことを進路に選ぶやつばかりだった。おれは、そういう人を見ていると腹が立ってくる。そうだ、欲しいと言っても買ってもらえなかったおもちゃを、間近で見せびらかされているような———。  パキッ  シャープペンの芯が折れる音がして、はっと我に返る。時計を見ると午後二時を回ったところだった。誰もいない家で一人、勉強していると、あっという間に時間が流れていてびっくりする。勉強したことが脳みそにしっかりと染み込んでいる気はするけど、心は潤わない。  とにかく余計なことは考えないようにしよう、と思ったけれど上手くいかなかった。こういうときに限って、視線がギターを捉えてしまう。  スタンドに立て掛けられた茶色いアコースティックギター。パーツから何から何まで自分で作り、毎日少しずつ組み立てて、昨日の夜に完成した。もう手を加える必要はない。だけど、逃げ場を失った気分だった。  
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