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山の神がそう呟くと、自分の腰に何かが巻き付く感触があった。もしかして———とおれは思う。山の神には尻尾が生えているのか。もしくは長い腕とか。そんなふうに目に見えない山の神の姿を想像していると、不思議と興味が湧いてきた。
「あのー。山の神さまは普段なにをしてるんですか?」
荷台が微かに揺れ、「ホホホホホ」と笑い声が返ってくる。
「鳥たちと歌ったり、小さき者の悩みを聞くこともあるが、一日のほとんどは山に落ちているものを拾って選別している」
「へぇ、けっこう忙しいんですね」
「まぁな。ごみを山の入り口へまとめたり、落し物を寝ぐらにしまったり、やることは多い」
「ごみとそうでないものの区別がつくんですか?」
「なにを言っておる。ものには持ち主の念が宿るだろう。大切にされたものは光って見え、ごみは霞んで見える。そんなの一目瞭然だ」
「わしは山の神ぞ?」ぽすぽすと何かに頭を叩かれ、「いてっ!」とおれは叫ぶ。そうこうしている間に町で唯一のコンビニチェーン店に着いた。
「ホホホホホ。なんだこの眩い家は!」
自動ドアをくぐってすぐ、テンションの上がった山の神らしき風が、顔の横を猛スピードで横切っていった。意外にヤンチャだな、と呟いて、おれはお茶を持ってレジに向かう。
「あの、すみません。カラアゲちゃんを一つお願いします」
カウンターの内側にしゃがんで何やら作業をしている女性の背中に、おれは声を掛けた。
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