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山神ダンデム
夢はたいてい記憶の追体験である。
だからこそ、年齢もまちまちである。
その日の夢の中の自分はまだ小学生で、しかも大声で泣いていた。とぼとぼと歩く山の中には、自分の嗚咽と、乾いた風と、小枝を踏む音が響いている。
しばらくして、おれは背負っていたランドセルを逆さまに振った。中から出てきたのは、図工で描いた下手くそな絵や、赤入れだらけの習字や、バツがたくさんついたテスト。
そんなふうに草の上に散らばる、誰にもはなまるがもらえなかったものたちを見ていると、どうしようもない悲しみと一緒に、涙がまた迫り上がってくる。
「母さん、おれをちゃんと見てよ」
ぐちゃぐちゃに泣き続ける自分は、いつの間にか高校ニ年生の身体に戻っていた。
泣いているのが急に恥ずかしくなった。
必死に顔を拭っていると、頭の上からはらりと、何かが落ちてくる。
『進路希望調査票 二年二組 穂積孝弥』
それは、数ヶ月前に捨てたはずのプリントだった。そこに書かれた志望校の名前を見たとたん、腹の中から、指先から、足の先から、たちどころに悲しみが広がっていく。
本当にこのままでいいのだろうか。
自分の気持ちに蓋をしたまま、受験の日を迎えるのだろうか。
「国立なんか行きたくないよ」
そう呟いたときには、おれはもう夢から覚めていた。
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