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結局、手作りチョコの殆どは保存状態の問題などもあってほとんど処分することになってしまった。
誰からチョコが来たのかだけでもメモしたいところだが、差出人の名前がなかったり、フルネームでなかったりということも珍しくなくて差出人不明の品もたくさん存在したのだった。――いやほんと、誰から送られたかもわからないのでは、まったく意味がないと思うのだが。
数日後。チョコの“大山”が“かなりの小山”になってきた頃のこと。僕はバレーボール部の部室に太陽を迎えに行こうとして、とんでもない場面に出くわしてしまう。
「ねえ、太陽くんさあ……」
廊下で、太陽が三人の女子に囲まれていた。どうやらロッカールームから出てきたところをファンに待ち伏せされたらしい。明らかに不穏な気配。つい、階段の影に隠れてしまう僕。
「この間、あたし達が送ったチョコ、食べてくれたよね?」
「……悪い、お前らが誰かわからないんだけど。あと、すんげー大量に貰ったからまだちょっとしか食べれてなくて」
この馬鹿正直者め、と僕は苦笑いした。あの女性三人、なんとなく見覚えがある。よく体育館に応援で駆けつけていたメンバーではなかろうか。太陽のファンは多いが、真ん中の女性は特に髪の毛を派手な赤毛に染めてるので目立つのだ。
――つーか、食べたよね?って。なんでもう当たり前のように食べて貰った前提で話進めてんの。こわ。
なお、名前までは僕も知らない。前に太陽と話していたら睨まれたことがあったので、正直良いイメージもなかった。
「はあ!?いっつも応援してあげてるあたし達のことも覚えてないの!?サイテー!」
「いや、だって名乗ったっけお前ら?」
「訊きにくればいいじゃない。いつも応援ありがとう、名前はなに?って」
「部活中は特定の女子に話しかけたりしないようにしてるし。つか、それやったら他の子が騒ぐし……」
同性相手には元気いっぱいの太陽が、すっかりたじろいでいる。顔色も悪い。これは本気で、女子というものがトラウマになっているかもしれない、と心配になる。
前に別れた女性から、本当はもっとひどいことを言われていたのかもしれなかった。
「関係ないでしょ、応援してもらってる感謝くらいすれば!?」
そうよそうよ!と女性達は自分勝手なことばかり言う。
「ていうか、いっぱいチョコ貰ってるとか、自慢?マウント?マジドン引きなんですけど」
「は?いや、そんなつもりじゃ……」
「大体、本当に自分で食べてんの?バレンタインで女子からチョコ貰っても、ほとんど捨ててるって噂あるんですけど。もしくは、あの眼鏡のひょろっちい友達?に食わせてて自分は食べてないってー」
んんん?と僕は困惑した。眼鏡のひょろっちい友達。多分僕のことだ。まさかこっちに矢が飛んでこようとは。
「自分で食べもしないとか男としてサイテーだと思わないの?つか、同じアパートに住んでるっていうけど実は男同士で同棲とかしてんじゃないの?本当は女に興味ないんでしょ、ホモなんでしょホモ。それならはっきりみんなに宣言すれば?今まで女の子たちを裏切っててごめんなさいって謝りなさいよ、ねえ!」
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