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よくもまあ、こうもべらべらと都合の良い言葉を並べられるものだ。流石に腹が立ってきてしまった。太陽がゲイでないのは僕が一番よくわかってる。ていうか、そうじゃなきゃ女のコと付き合うようなことはしないだろう。
僕がどうこう言われるのはもう気にしないけど(つか、高校の時から言ってくるやつはいたし)、太陽が誤解されるのはあまりにも気の毒だ。これは出て言って一言言うべきか、と僕が迷った時だった。
「それはさすがに聞き捨てならねえな」
太陽の、今まで聞いたことがないくらいドスのきいた声が。
「俺をゲイだと思いたいなら好きにしろよ。でもな、琉衣のこと悪く言うのは許さねえ」
「へえ、認めるのね?」
「認めるとか認めないとかじゃねえよ、俺の友達を侮辱するなっつってんだよ。そもそも、お前らはなに?俺はバレンタインにチョコとか送ってくんなって、あっちでもこっちでも発信してるよな。食べ切れないから困るって。それなのに、俺の迷惑も考えずに送り付けてきて、“食べないのはサイテー”とかなんとか何様のつもりだよ。自分がアピールできたら、俺の気持ちとかどうでもいいってのか。そっちこそ“女としてサイテー”だと思わないのかよ」
あいつはな、と彼は続ける。
「琉衣はな、俺が本気でチョコの山で困ってた時、一緒に整頓するのを手伝ってくれて、食べ切れないチョコを一緒に食べてくれて。俺が部屋に女連れ込んでた時は気を使って来ないようにするとか……そういうこと出来る奴なんだよ。つか、俺が心配だから、頭いいのに同じ大学受けてくれたしさあ。……お前らみたいに、人の迷惑顧みないで押し付けるばっかりのやつとは違う。あいつを馬鹿にするなら、俺は絶対許さない」
「き、きもちわる!男なのにそんな依存してるみたいな……」
「ああそうだな。少なくともお前らと付き合うくらいなら琉衣と付き合った方が千倍はいいだろうな」
ぽかん、としてしまった。
彼は気づいていたのか。――僕が、太陽と一緒にいたくて、理由つけてこの大学を選んだことを。
――僕と付き合う方がいい、とか。
思わず、その場で頭を抱えて蹲ってしまう。
――やめろって馬鹿。期待すんじゃん。
彼は親友だ。きっと太陽はそう思ってくれている。
だからこそ僕は、それを尊重してずっと友達でいようと思っていたのに。
実は、ちょこっとは脈があるかもしれないとか、そういうことを思っていてもいいのだろうか。いや、彼はきっとストレートだし、そういう意味で言ったわけではないだろうけど、でも。
「……おーい?琉衣、何してんの?」
「どわっひゃああ!?」
一人でもだもだしていたら、女たちを追っ払った太陽に見事に見つかった。僕は変な声を上げて尻餅をついてしまう。
「何やってんだよ、ばーか」
彼は呆れたように笑いながら、こちらに手を伸ばしてきたのだった。
「相変わらず、お前は見てて飽きないなー琉衣」
「う、うっせ!」
その手を当たり前のように掴めるのこと、そのなんと有難いことか。
僕は笑いながら、その優しい手を握って今日も立ち上がるのだ。
こんな日が、一秒でも長く続くようにと祈りながら。
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