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チョコっと甘い僕等の世界
「お、おおう……」
目の前に広がる光景に、僕は思わず声を上げた。
「毎年毎年思うけどお前……すっごいなー」
「棒読みの賛辞アリガト」
がっくりと肩を落とす親友、太陽はため息まじりに言った。
「ほんと、付き合う女は選ばなきゃなんねえってマジ実感したわ。去年までは大学の部室に届くとか、学校で追い回されるとかその程度だったのによ。人の住所バラしてんじゃねえわマジで……」
「……ご愁傷様です」
僕と太陽は、同じ大学に通う大学生だ。高校時代からの親友であり、ルームシェアしているわけではないが同じアパートに住んでいる(大学から近く駅からもほどほどに近く、家賃がアルバイトで賄える程度の額だったからである)。
だからお互いの部屋に突撃することは少なくない。太陽が去年女を連れ込んでいた時は少し遠慮したが、それ以外は一週間とあけることなく彼の家に顔を出しているし、向こうが僕の部屋に来ることもままあるのだった。
アニキタイプの太陽と、生真面目な弟キャラと呼ばれる僕は、そういう意味でも相性が良かったのだろう。彼が長身マッチョで僕が童顔の普通体型なので、見た目的にも兄弟に見えるのかもしれない。
まあそれはさておき。
今、彼の部屋には大きな山ができているのだった。まごうことなき、チョコレートでできた山である。ダンボールもあれば、紙袋も箱もある。全てこの部屋に届けられたブツだった。
そう、昨日はバレンタインデーだったのである。
確かに太陽はチョコも嫌いではないが、この量を食べるのはいくら大食いの彼でも至難の業というものだろう。
しかも今年は、去年別れた女が腹いせに太陽の住所をバラまいたせいで、直接この家にチョコが配達されるようになってしまったのだ。太陽いわく“マジで見覚えのない名前の女”から“そもそも女じゃないやつ”まで混じっているという。正直、検品するだけ怖いと僕に泣きついてきたというわけだ。過去には髪の毛を手作りチョコに混ぜてきた輩なんかもいるがために。
「高校の頃から思ってたけど、君のモテ度って異常だよね」
僕は呆れて言った。足元に転がっている、綺麗にラッピングされた赤い箱を手に取る。コレに至っては差出人の名前さえ書いてないのが恐ろしい。直接ポストに投げ込んだのだろうか。怖い。
「高校の時ちょっと読モやってて、高校でバレーボールで全国行っただけでそんなにモテるもん?」
「そりゃお前、俺はイケメンだからよ!」
「自信満々なのは素晴らしいけど、さすがにこれはマジでなんとかしなきゃでしょ」
彼、ひょっとして異世界からの転生者とかじゃないのだろうか。でもって転生する際に、女神様からチートスキルでももらっちゃったやつ。
「……異世界転生系ラノベとか読むこともあるけど。君見てると、モテモテスキルとか溺愛スキルって……行き過ぎると害悪なんだなと常々思うわ。帰っていい?」
「よくない!」
僕が真顔で言うと、太陽は途端に男らしい顔をくしゃりと歪めて叫んだ。
「中には開けるだけで怖いやつあんの!一人でチェックしてたら今日一日あっても終わらんの!お願い、タスケテ琉衣クン!」
僕の足に縋り付いて泣き真似するムキムキマッチョ。
この姿、女性達が見たらどう思うだろうな、と僕は天を仰いだのだった。
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