【 新しい出会い 】

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「オヤジのやつも何考えてるんだ。何もされなかった?」 「何言ってんの? あ、妹さんが高校の時のクラスメイトだったんだ。光ちゃんの事も知ってたよ。すごい大きな犬がいてね」  桔花はまるで遠足の報告をするように目を輝かせて光輝に話した。 「式場に行ったんだよね、犬って何?」 「安住さんのお宅にいたんだ」 「オタクって自宅? 何で自宅になんか行ったんだよ!」 「何でだっけ……」  光輝の心配を他所に桔花はケロッと答える。   「でもお出掛けは楽しかったんでしょ?」  早苗が助け舟を出す。 「楽しかったけど初めての事だらけですごく疲れた。でもアンジェリオは凄く素敵だったよ」 「普段表に出ないからよ、いろんな人と会うのも大事なことよ」 「母さんまで何言ってんだよ、きっちゃんはすぐ熱出すんだから知らないやつの所にになんか行っちゃ駄目だよ!」 「また光輝の過保護が始まった。歳が近いんでしょ? お友達になって貰ったらいいじゃない」 「いや、安住なんてバリバリ商売絡みだって」 「でもChiccaのマリッジリング……はお断りしたよ」 「え? 断ったの? だってさっき出来上がったら何とかって……」 「夏子さんが、僕が高校生の時に作ったリングを大事に待っていてくれて『返す』って言うからサイズを直すから貰ってってお願いしたんだ」  てっきり言い包められてきたと思っていた光輝は拍子抜けをした。 「へぇそうなんだ」 「僕がSHIROTAに卸したものをその後どうするかは社長が好きにすればいいけど、結婚指輪なんておこがましいよ……納期のある仕事は約束できないし……だから断った」 「そ、そうだよ。きっちゃんは気に入った作品をゆっくり作ったらいいんだって」 「でもパパに叱られるかな、やらせたかったみたいだから」 「きっちゃんが嫌なら親父も無理強いなんてしないよ」  ふと思い立った様に桔花が言う。 「こうちゃんは何でこんなに早いの? 何かあった?」  光輝の帰宅時間は、日付が変わる頃な事も多い。 「何って……本社戻ったら受付の子がきっちゃんが安住と出掛けたっていうから」 「だから?」 「だって一大事じゃないか、遅くなったら迎えに行こうと思って待機してたんだよ」 「じゃあ仕事中に帰って来ちゃったの?」 「親父には言ってきたよ」 「もぉ僕だってさ、電車くらい乗れるんだよ。送って貰えなかったら自分で帰ってくるよ」 「乗れるわけないだろ」  捨て台詞を吐いて光輝は自室に入ってしまった。 「もう、いい加減にしてよ」  桔花がブツブツ文句を言っていると早苗が声を掛けてきた。 「光輝はきっちゃんが心配で仕方ないのよ」 「わかってるけどさ」  すると早苗は少し言いづらそうに話を続けた。 「ねえ、きっちゃん」 「なに?」 「この前テレビ見てた時の、尚輝じゃないかって言ってたやつね」 「うん」 「あの歌、最近コマーシャルで流れるのよ」 「そうなんだ……え、で?」 「ちょっと本人みたいな人も映るんだけど……あれ尚輝ね」 「ほら、そうでしょ? 尚くんホントに歌手になったんだね」 「そうね、きっとあの子はもうここには帰って来ないわね……」  『ああ、ママやっぱり寂しかったよね。僕達がいるから気にしない振りをしてたんだ』  肩を落とした早苗を見て思った。 「元気だして、僕達がいるじゃない」 「きっちゃんだって好きな人ができたら居なくなっちゃうでしょ。光輝だって」 「僕は何処にも行かないし、光ちゃんなんか可愛いお嫁さん連れてくるよ」 「来ないわよ、あの子はきっちゃんが好きなんだから」 「何言ってるの。お嫁さんがきたらここを二世帯住宅にしてさ、孫だってすぐできるよ」 「きっちゃん……ありがとう。でも好きな人ができたら私に遠慮なんかしないでね」  『ママ、尚くんだってきっと帰って来るよ』    
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