【 新しい出会い 】

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「安住くん、コレがさっき話した桔花ですよ」 「あ……し、失礼しました。僕、松田桔花と申します」  自分が名乗っていなかったことに気付いた。 「桔花も掛けなさい」 「え? お仕事中じゃないんですか?」  将輝に促され二人が向かい合わせに座ると、恭平は桔花をジッと見つめた。 「あの……」  桔花は居心地悪そうに恭平に言う。  恭平は〝はっ〟と我に返った。 「失礼、見とれていました」 『ええ……』  桔花は身長は170センチには届かないほど、痩せすぎなほど細く外にあまり出ない素肌は透けるように白い。  顔も小さく、知らなければ女性にしか見えない。  それでも桔花はそんな事を言われたのは初めてで、どう反応したらいいのかわからなかった。 「城田社長が一人だけ専属デザイナーを置いていると聞いていたのでてっきり女性だと……それと『chicca』の作品を見て勝手に女性だと思い込んでいました」 「ハハハ、愛人だとでも思っていたのかな?」 「い、いえ……」 「社長!」 桔花が叫ぶ。 「まぁ他人の言うことなんか気にしなくていい。安住くん桔花は私の旧友の一人息子でね……」  将輝は桔花のことについて話しだした。 「コレの両親は世界を飛び回っていて、今はシンガポールに家を持っているんだが、この子がお腹にできた時日本に落ち着くと言うのですぐにウチの隣に家を建てさせて、私がこの子を見るからって仕事を続けさせたんですよ」 「そうなの?」 「何だ知らなかったのか。実際育てたのは早苗だがな」 「ご両親と離れて寂しくなかったですか?」  恭平が桔花に聞いた。 「多分両親に育てられたほうが寂しかったと思います。兄弟も出来てママは……早苗さんは実母より僕を愛してくれてると思いますから」 「そうですか、光輝くんとは何度かお会いしてますが、桔花さんの話はでなかったのでご兄弟のようにしてらっしゃるのは知りませんでした」 「私には二人息子がいますが、どうやら子育ては失敗したようで」 「そんな……光ちゃんはちゃんとやっってるじゃない」  桔花は将輝の話を遮るように言った。 「あいつは金勘定はできるが、石に対してのセンスがない。だから私は桔花に期待してるんだ」 「なに冗談言ってんの」 「桔花はホントに石が好きでね。買付にも一緒に行きたがって、彫金までやりだした時には松田になんて言って桔花をもらおうかと思いましたよ」 「もういい加減辞めて、安住さんが本気になさるでしょ」 「ハハハ、話が反れたが安住くんの所と提携してうちのジュエリーを置いてもらうという話をもらっていてね」 「そうなんですか」 「chiccaを是非にとおっしゃってくださってるんだが……」 「なかなか手に入らない『chicca』を結婚指輪にしたいというお客様が度々いらっしゃるんですが、結婚指輪は作品に無いようなのでお願いにあがりました」 「え、僕マリッジリングなんて……そんなの作れないです」  桔花は困惑の表情を浮かべる。 「追々で構いませんよ。とりあえず数点店舗に置かせていただければ」 「量産のジュエリーも置いてくださるということでお引き受けしましたが、桔花は気が向かないと作らないし、仕事が遅くてね。ご不便をお掛けすると思いますよ」  桔花は申し訳無さそうに下を向く。 「それでも構いませんよ、どうかせっかくのご縁を断ち切らないでください」 「聞いての通り熱烈なラブコールを受けてね、やってくれるかい?」 「納期のある仕事なんて無理です」 「この通りこの子は才能を出し惜しみしていてね」 「出し惜しみなんかじゃなくて……無理なんです」  将輝は『やれやれ』という顔をして恭平を見た。
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