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夕方になって恭平が帰ってきた。
家に入ると夏子に〝シッ〟と人差し指を立てられた。
「まだ寝てるの?」
次にその指はリビングを指した。
中に入ってみると、桔花が昼間夏子の言った姿のまま眠っていた。
ウルフはまだ耐えている。
一年以上付き合っているが、桔花の寝顔は初めて見る。
「可愛いなぁ」
思わず漏れ出た声が桔花を起こした。
「あ、はっここ あ、ウルフ。恭平さんも……僕寝ちゃったんだ。他所のお宅でこんな、ホントにごめんなさい」
「他所のお宅なんて言わないで、私が寝かせておいたのよ。あとウルフがズーッとあなたに抱かれてる間動かないように頑張ってたわ。やっぱり疲れてたのね。大分寝ていたから身体痛くない?」
「うん、大丈夫。ウルフ〜、君は天使だねぇ」
ウルフの頬に自分の頬を擦り付けた。
「それなのに兄さんの『可愛いなァ』で起こしてしまったのよ、どう思う?」
「恭平さんにはそういうのわからないよ。本能の赴くままに思った事を口にしてしまうから」
「桔花は俺の事を良くわかってるな」
「褒めてるんじゃないですよ」
「それはそうと、俺への連絡よりウルフが先っていうのはどういうことだろう」
「どうって、ウルフの顔しか思い出さなかったんだからしょうがないですよ」
「そうか……」
二人の様子を見て夏子が言った。
「仲直りできたのね、兄さんの話しを聞いた時は桔花にもう会えないんじゃないかと思ってたわ」
「恭平さんと会わなくてもなっちゃんとウルフには会いに来るよ」
「ホントに? 約束よ」
〝ウォン ウォン〟
「心臓に悪いから、ホントにもう許してくれよ」
「アハハハ」
三人で笑った。
「恭平さんは忙しいんだから、そんなに僕に構わなくていいんだよ」
「そんなわけにいかないよ。まだ全然安心できないからね……だけど、このタイミングで尚輝くんが退院してくれてよかった」
「どういう事?」
「前に言っていたシンガポールの式場が完成したんだ」
「あ、おめでとうございます。オープンには向こうへ?」
「何他人事みたいに言ってるの、君も連れて行くって言ってあったでしょ」
「なっちゃんは?」
「私はウルフが寂しがるから行けないわ。桔花楽しんできてね」
夜、恭平が桔花を乗せた車が城田家の門前に停まった。
「ありがとうございました。じゃあ」
車を降りようとする桔花の手を恭平が掴んだ。
「尚輝くんが退院したその日に会いに来てくれてありがとう」
「だからそれはウルフに……」
「それでも嬉しかったよ」
桔花の顔はほんのり赤くなった。
その時恭平が言った。
「抱き締めてもいい?」
「え?」
桔花が聞き返すより前に恭平は桔花を抱き締めていた。
「君と喧嘩別れしたしたまま……長かったよ。嫌な思いをさせてごめんね」
「それはもういいですよ」
「桔花には格好をつけようとすればするほど格好悪くなっていくよ。あの時……桔花が帰ってしまった時、何を聞いたって俺の気持ちは変わりはしないのに、何であんなに桔花を責めたのか自分でもわからないんだ」
「格好悪くなんてないですよ」
『僕を好いていてくれてるのはよく分かるから』
「これからも君に愛想を尽かされないようにするからね。手始めにシンガポール楽しい旅にしよう」
「それなんですが、お仕事なのに僕が付いていっていいんですか?」
「勿論雑務にも追われるだろうけど、一番の目的はオープニングパーティだからね、パートナーのいる者はそれぞれ連れてくるんだよ」
「そこで僕を?」
「ああ、あちらの主要なスタッフや、招いている友人にも君を紹介できる事が楽しみでしかたないよ」
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