【 シンガポール 】

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【 シンガポール 】

   【 シンガポール 】  それから一週間後、あっという間にシンガポール行きが現実になった。 「きっちゃん、忘れ物ない?」  アワアワしながら早苗が聞く。 「うん、すぐ帰ってくるし、パスポートだけあればいいくらいだよ」 「安住さんに作ってもらったタキシード忘れたら大変よ」 「もうあっちに送ってあるって」 「何もかも完璧ね。でも一人で飛行機の乗せるなんて心配だわ」 「空港で恭平さんに会うんだから大丈夫だってば」 「そうね、じゃあ楽しんでらっしゃい。気を付けていくのよ」 「はい」    桔花と恭平は飛行機に乗り込んだ。 「朝まで仕事を片付けていたものだから、家まで迎えに行けなくてごめんよ」 「駐車場まで光ちゃんが送ってくれたので大丈夫です」 「ホントに彼には頭が下がるよ。お土産を買って帰ろうね」 「はい」  恭平はじっくり桔花の顔を見て言った。 「君の姿を見るまでドキドキだったよ……来てくれてありがとう」  「来ないと思ったんですか?」 「飛行機嫌みたいだったから、それも在り得るかな……と思っていた。緊張してる?」 「それなりに……あの、他のスタッフの方は一緒に行かないの?」 「他の者は準備があるから先に向こうに行ってるよ。それにここはファーストクラスだから一緒にはならないよ」 「え?」 「桔花が飛行機嫌いにならないようにね、機体も大きいから揺れも少ないしきっと快適な旅になるよ」 「そんな僕の為なんかに勿体ない」 「何を言ってるんだ、夏子もそうしろって言ってたよ。勿論これは俺のポケットマネーだから安心して」 「ありがとうございます」  こういう恭平の大人の心遣いは桔花の胸の奥を擽る。  恭平の言う通り、飛行機は離着陸の振動以外たいして揺れもせず桔花は飛行機の旅を堪能した。  到着後、早速現地に赴いてみる。 「ここだよ」 「素敵ですね」  薄いクリーム色を基調としたリゾートホテルの様な外観だ。  〝ドンッ〟その時、桔花の背中に何かが当たった。 「あ、すみません、大丈夫でしたか?」  相手は二人組の男性だった。 「ごめんなさい、写真を撮るのに夢中になっていて。あなた達もここを見にきたんですか?」  現地の人と思われる二人が話しかけてきた。 「え、いえ僕達は……」  桔花が答えると。 「私達来月ここで式を挙げます。男性同士の結婚式を引き受けてくれるところが少なくて困っていたところにここの話を聞いて出来上がるのを待っていたんです」 二人の手はしっかり握られている。 「そうですか、それはおめでとうございます」  桔花は答えた。 「ありがとう、本当に嬉しいです。あとchiccaのリングが手に入れば完璧だったんですけど、それは無いそうで残念です」 「え……」  桔花が下を向く。 「ハハハ、彼がそのchiccaのデザイナーの桔花さんですよ」  恭平が二人に言う。 「ちょっと恭平さん!」  桔花は慌てた。
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