【 シンガポール 】

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「え? あなたが桔花さんなんですか? 女性かと思っていました。いつか是非マリッジリングを作ってください」 「あ、あの……」  更に困っている桔花を見て。 「もし彼がマリッジリングを作った時には連絡をするようにスタッフに言ってください」  恭平が助け舟をだす。 「あなたは?」  二人に聞かれた恭平は。 「私はここのスタッフですけど、ボスに伝えておきます」 「わかりました。ありがとう」  そう言って二人は去って行った。   桔花はジロリと恭平を睨んで言った。 「何であんな事言ったんですか?」 「だって、あのままじゃ彼等が引き上げそうになかっただろ」 「それにしたって、そんな日が来ないのに待たせるって……」 「君が彼等の為に『作ろう』って思ってくれるかもしれないじゃないか」  『なるほどそっちが本心か』 「自分はただの従業員だなんて嘘をついて! とんでもない確信犯ですね」 「ハハハ、さぁゆっくりディナーにしよう。料理の感想も聞かないといけないしね」  恭平は、ケロッとした顔で桔花の背中を押されてホテルに入って行った。  恭平は真っ直ぐフロントに向かった。 「あ、ボス。やっとお着きですか」  フロントいるのは総合マネージャーをしている日系中国人の『リー』だ。 「遅かったかい? 空港から真っ直ぐ来て予定通りなんだが。桔花、ここの全てを任せているリーだよ」  リーが恭平の後ろから付いてくる桔花を見つけた。 「おー 貴方が桔花さんですね」  スターでも見るかのように目を輝かせて言った。 「あ、はい。初めまして」 「ホントに可憐な小さい花の様な人だ。ボスには勿体ない……」 「……プッ クックック」  恭平にこの手の憎まれ口を叩く人間を夏子以外には初めて見たため、桔花は思わず吹き出してしまった。 「酷いい言いようだろ? だから会わせたくなかったんだよ」  桔花は下を向いてずっと笑っている。 「いいからキーをよこしなさい」  恭平がそういうと大きなリボンの付いたカードキーを2枚渡した。 「荷物はお部屋に入れてあります。桔花さんどうか楽しんでください。何かありましたら何なりとこのリーにお申し付けください」 右手を胸に当ててお辞儀をした。  まだ笑っている桔花が会釈をすると、恭平が腰を引いてエレベーターに乗り込んだ。  〝チンッ〟エレベーターが最上階に着いた。 「さぁここが自慢のスイートだよ。ウエディング以外で使うのは恐らくコレが最初で最後だろうね」 「そんないいお部屋じゃなくていいですよ」  そう言いながら窓まで真っ直ぐ歩いて行った。 「俺には君が誰より大事なゲストなんだから遠慮することはないよ。それにスイートはあと2つあるから大丈夫だよ」 「わぁ 凄い……」  眺望を見て、溜息混じりに呟いた。 「夜はもっと素敵だよ……桔花」 「はい?」  恭平は桔花の正面に立って言った。 「あの……聞かずに……一緒で構わない? 部屋はここ以外満室なんだけど」 「え……はい。僕はそうだと思って来ましたけど」 「そうか……よかったぁ」  恭平は桔花を強く抱きしめた。  桔花は恭平の胸の中で赤くなった。  『やっぱりそういうことだよな……』 「桔花、一緒にこられてホントによかったよ」 「恭平さん、いろいろありがとう」  体を離した恭平の顔が近づいてきて、優しいキスをしてきた。  恭平の唇が桔花の首を這い出した時、部屋の電話が鳴った。  
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