【 シンガポール 】

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 二人はパッと体を離した。 「あーこんな事あっていいのか!」  〝プッ〟桔花がまた笑い出した。  『僕ずっと笑って……恭平さんといると思いもしない事が起きる』 「はい」  電話はフロントからで、頼んでいたディナーの準備ができたというものだった。 「着替えなくてもよければこのまま行こうか」 「はい、このままで」  レストランは、桔花達の部屋のワンフロア下にあった。 「フレンチにしたんだけど、よかった? もし違うものが良ければ……」 「いえ、大丈夫です」  「恭平さん、お仕事は?」 「ああ、食事が終わったら少し打ち合わせに行ってくるね」 「だったら僕は両親に会ってきていいですか?」 「勿論だよ。久しぶりだよね?」 「久しぶりっていうか、こっちの家に行くのは初めてです」 「あ、修学旅行以来の飛行機だもんね」 「そうですよ……何度も言われてたんですけど、恭平さんのお陰で親孝行できます」 「嬉しいな、俺は遅くなるだろうから、もしあちらが良ければ泊まってきたらいいよ」 「え? いいんですか?」 「本当は君を抱き締めて眠りたかったんだけどね」 「恭平さん、声が大きいです」 「ハハハ、ごめん。今日スタッフと顔合わせをして、パーティは明日の夜だからソレまでには戻ってね」 「はい」 「本当は一緒に行きたいけど俺は時間が取れないから、宜しくお伝え下さい」 「はい、一人で大丈夫ですよ」 「着替えるだろ? 何かお土産をフロントに預けておくからね、車を抑えるからリーがいなかったら名前を言って」 「はい」 「危ないから帰りもタクシーで戻らないと駄目だよ」  いつも光輝に言われるような感覚が嬉しい。 「あの……さっきの人達」 「え? ああさっきのカップル?」 「すごく幸せそうでしたね。ここが出来るのを待っていたって言ってましたね」 「そうだね、ありがたいよ」  二人の笑顔が頭から離れない。 「恭平さんは人の為になるお仕事をしているのに、僕は……」 「なんだアレをまだ気にしてるの?」 「だって、僕作る気全然ないのにあんな……」 「変なプレッシャーを掛けてしまってごめんね」  恭平は、少し改まって話しだした。 「桔花、俺が何で結婚式場を作ろと思ったかを話した事あったっけ?」 「いいえ」 「俺はね、気づいた時にもう女性を恋愛の対象には見れなかったんだよ」 「そうなの」 「俺みたいな性的マイノリティの人間は、希望はあるけど人並みに結婚式を挙げられるなんて普通は思わないんだよ」 「どうして?」 「さっきの彼等だって、式場だけの問題じゃないと思うよ。世の中理解があるように動いては来てるけど、実際自分の身内の事になるとさ」 「僕は二人がよければいいと思うけど」 「俺だってそうだけどさ、実際親にカミングアウトした時縁を切られわけだよ」 「ただ田舎に引っ越しただけじゃないの?」 「二度と顔を見せるなって言われたよ」 「そんな……」
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