【 シンガポール 】

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「じゃあ今度は僕が何でペアリングを作れないのか聞いてくれる?」 「え? 何突然……勿論だよ。是非聞かせて」  今まで散々アプローチして断られていた指輪の秘密が聞けるのかと、恭平は生唾を飲み込んだ。 「尚くんが着けてる指輪……あれねペアリングだったの」 「え? 片方は君が?」 「うん、その存在を話す前に尚くんは出ていってしまったんだけどね」  『アレのお陰で尚くんの手紙も見つけられなかったし』 「だから僕はペアリングなんて二度と作らない。作れないんだ。僕が作ったリングなんかしたらその二人は絶対不幸になる。マリッジリングなんてとんでもないよ」 「そんな事あるわないだろ!」 「尚くんとバンドやってる女の人が他の仲間と病院に来たんだけどね、あの指輪には僕の呪いが掛かってるって言ったんだ」  恭平は黙って席を立ち桔花の横に座った。 「そんな酷いことを言われたのか」 「僕もそう思うよ」 「こんなに折れてしまいそうな桔花になんてこと言うんだ……可哀想に、俺の知らない所でそんなに傷ついていたなんて」  恭平は俯いている桔花を抱きしめた。  暫くして桔花が顔を上げた。 「でもね僕は今恭平さんと一緒に居たいと思ってるよ。指輪の事も話せてよかった」 「ああ 桔花、それを聞けただけでも連れてきてよかった」 「大袈裟だな」 「君のリングで不幸になるなんてことあるわけないけど、二度とペアリングを作れなんて言わないからね」 「恭平さんは本当に優しいね」 「そうかい? 君にだけだよ。リーの態度見ただろ?」 「え? プッアハハハ」 「よかった、やっと笑ったね」    * * *  食事を済ませると、二人は別行動になった。  桔花は市内に住む両親の家に向かった。  〝リンゴーン〟 「きっかー、桔花ー、待ってたわ!」  母親の雪は思い切り桔花を抱きしめた。 「お母さんお久しぶり。お父さんもお元気でしたか?」 「何とかやってるよ、さぁこっちへ」 「素敵なお住いですね」 「気に入ってくれた? いつでも来て頂戴、こっちにあなたの部屋もあるからね」  雪は桔花に腕組みをして家を案内した。 「僕の部屋があるんですか?」 「あたりまえじゃない」 「もっと早く来てくれると思っていたからね」  父親の一郎が言った。 「僕飛行機苦手だって言いましたよね」 「ああ、今回は安住くんが連れてきてくれたんだったね、彼には以前食事に誘われてお母さんと一緒に会ったんだよ」 「ええ、聞きました」
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