【 シンガポール 】

6/10
前へ
/64ページ
次へ
「ここよ」  薄いブルーで統一された部屋に通されると、雪と二人ベッドに腰掛けた。 「素敵ですね」 「あの時、僕はまだ何もお返事してなかったんですよ」 「そうね、まだラブコール中だけど自分は桔花を愛してるって凄かったわよね」  雪は一郎と顔を見合わせる。 「恥ずかしい……お母さん達は、抵抗ないんですか?」 「同性婚のこと?」 「ええ」 「私達が、あなたの恋愛にとやかく言うわけないでしょ。それより城田の両親はなんて言ってるの?」 「特に何も。ママは協力的です」 「だったら何にも問題ないんじゃない?」 「でも……」  悩みのありそうな桔花に雪は言った。 「他に気になる人がいるの?」 「そんなんじゃないけど」 「尚輝はどうなの?」  突然『尚輝』という名前を聞いてドキリとする。 「うん、無事に退院したよ。それからは会ってない」 「そう、桔花は尚くんっ子だったから堪えたでしょ。いなくなったあの時にも側にいてあげられなくてごめんなさいね」 「光ちゃんが、chiccaを立ち上げて忙しくしてくれたんだ。多分尚くんのこと忘れさせようとしてくれたんだと思う」 「桔花は誰にでも愛されてるのね、お母さん妬けちゃうわ」 「お二人が仲良ければ十分でしょ?」 「あら、寂しい。リタイア後は日本に戻ろうと思っているのよ。勿論あなたがいるからよ」 「そうなんですか? あの家に?」 「そこまではまだ考えてないわ。桔花、今日は泊まっていけるんでしょ?」 「はい、こちらが良ければそうするようにって」 「何よ、すっかりスティディなんじゃないの」 「そうですね、凄く大切にして貰ってます」 「夕食は済ませてしまったのよね」 「すいません」 「じゃあゆっくりお話しましょう」  すると桔花の電話が鳴った。 「もしもし、恭平さん? ええ、二人共元気です。泊まって行くことにしましたから明日そちらに戻ります。はい、おやすみなさい」  電話を切った。 「お二人に宜しくお伝えくださいと言っていました」 「よく気の付く人ね」 「そうですね。やはりお仕事柄でしょうか、大人です。それとお仕事への信念が凄いな……って思いました」 「あの結婚式場ね、こちらの人にもとても評判がいいのよ。彼、期待されているわ」 「そうなんですか、聞いたら喜びます」 「桔花はのんびりしているからああいう人がいいかもしれないわね」 「でも、僕はあの家を……というかママと離れる事はできないので」  両親は顔を見合わせた。 「そうね、彼と一緒になるとなると、あそこを出なければならないものね」 「尚くんがいなくなって寂しいママを置いてなんていけないし、僕も未だに色々お世話になっているから」 「安住さんに家に来てもらえば?」 「え?」 「そうしたら全部解決じゃない」 「一瞬いい考えに思えたのですが、彼は妹さんと同居されているんです。大きいワンちゃんもいて」 「そうかー」 「何とか考えます。お二人がそう言っていた事は伝えますね、ありがとうございます」  恭平との付き合いを二人が快く思っていることに安堵した。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加