【 シンガポール 】

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   * * *    桔花がホテルを出てから一時間ほど経って、恭平は頭痛と共に目を覚ました。 「っつー」  『何だこの頭痛は、ここは……今何時だ?』 「きっか!」  名前を叫んで飛び起きた。 「目が覚めた?」  恭平は声のする方を見た。 「桔花? 戻ってたのか」 「いやだな、僕だよ」  バスルームから出てきたのはローブ姿のエマだった。 「エマ……なんでお前、何してる」 「昨夜(ゆうべ)恭平が僕をここに連れてきたんだよ、覚えてないの?」 「昨夜(ゆうべ)? 何を言っている」    【 昨夜の打ち合わせ会場 】 「社長、こちらが今回のCMに出ていただいたお二人です」 「どうも初めまして、安住です。この度は弊社の為にありがとうございました」 プロデューサーが、エマと女優を恭平に紹介をする。 「僕と恭平は昔からの知り合いなんだよ」 「そうだったね、だから撮影にも熱が入ったのかな」 「勿論一生懸命させてもらったよ。ねぇ」 「女優に話を振る」 「私はエマくんに任せっきりで」 「そうですか、私はまだ見てないんですけど、楽しみだな」 「恭平、はい」  エマはそう言うと、シャンパングラスを恭平に渡した。 「ありがとう」  恭平は、CMの二人がここに来ることを知らなかった。  明日のパーティでエマと顔を合わせたら桔花がどう思うか、その事ばかりを考えてて、受け取ったシャンパンを三回に分けて飲み干した。  十数分後、恭平は目眩と共にその場に倒れ込んだ。 「社長!」  スタッフが駆け寄る。 「あ、僕が部屋に連れて行って休ませます」  エマは恭平を抱えて部屋へ入り、ベッドに寝かせ洋服を脱がせた。 「桔花……戻ったのか……」  朧気な意識の中で恭平はエマを桔花だと思いそう言った。 「何が桔花だよ」  スリッと恭平の胸に頬を擦りつけた。 「僕の恭平……もう離さないよ」
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