【 シンガポール 】

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「そ、そんなわけないだろ! ねぇ恭平僕とやり直して。やっぱり恭平以外は考えられないんだ。お願いだから僕とまた」  エマが縋り付いてきた。 「エマ、俺達別れる時話し合ったよな」 「あんなの……恭平が一方的に別れるって言ったんじゃないか」 「君は今が大事な時なんだ、売り出す時にゲイの噂なんか出てみろ、モデルの仕事なんかあっという間に来なくなるんだぞ」 「そんなのわからないじゃないか。それに僕は仕事なんか来なくても構わない。恭平といたいんだ」  『だいたい恭平といれば仕事なんかしなくても一生遊んで暮らせるじゃないか』 「エマ……モデルになりたかったんだよな?」 「そうだけど、そんなのもうどうでもいいんだ」  「それでうちの仕事を受けてまでこんな事……桔花はどうしたんだ」  頭痛と吐き気でイライラが膨らむ。 「そんなに怒らないで、僕恭平の言う事なら何でも聞くから」 「こんな事しておいて……」 「だって仕方なかったんだよ」 「ホントにお前はいつまで経っても頭が悪い」 「そんな、僕の事馬鹿だと思ってたの?」 「馬鹿だが俺の言うことを何でも聞くところが可愛いくもあった」 「そうだよ、僕は恭平の言う事なら何でもきくよ」 「だったら、俺の邪魔をするな!」 「恭平?」  恭平は拳を握って震えている。 「いいか、桔花はお前と違って無垢で純真なんだ。お前みたいな汚れた男と添い遂げるなんて本気で思っているのか」 「酷い……」 「そうだよ、俺も汚くて酷い男だよ。だから俺は桔花を手に入れたいんだ」 「そんな……」  『いつも大人で、別れ話の時でされ紳士だった恭平がこんな事を言うなんて』  エマは初めて恭平が晒した素の姿に驚愕した。 「これ以上何かしてくるなら潰すぞ」 「ホントに僕を捨てるの?」 「捨てるって……初めからお前がモデルで食べていけるようになるまでという約束だったよな、契約は満了したんだ」 「僕のことは愛していなかったの?」 「愛? そんなもの誰にも抱いたことなどない! いいから出ていけ!」 「ひどい……」  エマはローブのまま自分の荷物を持って飛び出していった。  恭平は、怒りと痛みで言葉を発するのも苦痛だったが、部屋の電話に手を伸ばした。 「そこにリーはいるか……」 「ボス、大丈夫ですか」  電話に出たのがリーだった。 「昨夜はすまなかったね。何か後処理が残っているだろうか」 「いえ、予定通り、パーティの確認をして終わりました」 「そうか、よかった。あの……桔花がどこに行ったかわかるかな」 「あ、キーをお預かりしていますが、ちょっとお待ち下さい」  電話が数分間保留になった。 「お待たせしました。車にご案内したベルボーイが『空港』と桔花様が仰っていたと言っております」  『空港って……まさか帰ってしまったのか』 「わかった、ありがとう。悪いが部屋までアスピリンをお願いできるかな」  〝クソッ〟  電話を切った恭平は思わず漏らした。  ここまで連れてきて、やっと自分のものになると思っていたのに。  こんな落とし穴が待っているなんて思いもしなかった。  今までどんな男とだって後腐れなく別れてきたはずだ。  エマにだって納得させて別れたはずだった。   『いったいどこで間違えてしまったんだ』
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