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食事が済むと、チャペルに連れて行かれた。
「うわぁ」
白を基調とした空間の真ん中に真っ直ぐヴァージンロードが敷かれている。
「ここで将来を誓うんですね」
「どうですか印象は」
「初めてこういう所に立つんですけど、何か胸が熱くなっちゃいました」
「そういう率直な感想は本当に嬉しいです」
桔花は恭平の横顔に思った。
『ホントに嬉しそう……』
次に衣装が並んでいる部屋の隣にあるサロンへ連れて行かれた。
「この部屋を改装して、桔花さんの作品を置きたいんです」
両腕を大きく広げて部屋を指した。
「もうそんな具体的に……困ります」
部屋を見せられると、何となく想像してしまう。
「あなたの作品が未来永劫愛を誓い合った二人の指を飾るんですよ。素敵だと思いませんか?」
「はあ……」
『僕はそれがイヤなんだけどな』
「社長!」
従業員が近づいてきて恭平に耳打ちをした。ソレを聞き終えると桔花に向かって言った。
「実は桔花さんに紹介したい人物がいるのですが……ここにいると思ったんですが出てしまったようで、十分程車で走るんですがご一緒いただけますか」
ここまで来たら、もう何処へ連れて行かれようが一緒だ。
「構いませんよ」
着いたそこは恭平の自宅だった。
〝バタン〟
車を降りると。
〝ウォンッ〟
犬の吠える声が家の中から聞こえた。
桔花は驚き〝ビクッ〟と体が固くなった。
「犬、苦手ですか? すぐ仕舞いますね」
恭平が慌てると。
「あ、驚いただけで……っていうか、側にいたことが無いので少し怖いです」
「そうですか、私は子供の頃から犬が居なかった事がないんです。うちのは噛み付いたりしないので安心してください」
〝ガチャッ〟
玄関の扉を開けると、大きめのハスキー犬が恭平に飛びかかってきた。
『うわっ』
桔花は玄関の端に逃げた。
「あー、よしよし、飛びつくなよぉ。またスーツ駄目になっちゃったじゃないか」
犬は屈んで撫でる恭平の顔をベロベロ舐める。
〝クスッ〟と桔花は笑った。
「もぉ兄さんが帰ってくると待てないんだからぁ」
奥から女がひとり出てきた。
「あ、お客様?」
桔花は端に逃げたまま頭を下げた。
「……松田くん?」
「え?」
「何だ〜 驚かそうと思ってたのにやっぱりすぐわかるんだな。桔花さん妹の夏子です」
恭平と夏子は十歳離れた兄妹だ。
「ちょっとどういう事?」
「そうですよ、あの……」
「お前、今日サロンに顔を出すと言っていたからそのまま会わせられると思ってたら、戻ったと言うから、無理して付き合っていただいたんだ」
「夏子さん? ……僕の事」
「あ、やっぱり私の事なんか覚えてないわよね」
「え?」
「まぁ立ち話も何だから……」
三人と一匹はリビングに向かった。
恭平と夏子がお茶の支度にキッチンにいる間、ソファに一人座らせられた桔花の足元には先程の犬がおとなしく伏せていた。
犬はピクリとも動かないが、桔花は怖くて微動だにできなかった。
チラリと覗くように顔を見ると、犬は片目だけ薄目を開けて桔花を見て、桔花が目を反らすとまた目を閉じて伏せた。
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