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「わかりました。車の中に酸素ケースがあるので早くそこに入れてあげましょう」
獣医師はそう言って簡易のストレッチャーに光輝と二人でウルフを移して表に停めてある車に向かった。
夏子はそれを見ていたが、追いかけるようなことはなくその場に座り込みポツリと言った。
「やっぱりひどいよね……」
「恭平さんがいないとあんなふうになっちゃうの?」
「初めてだけど、他に思い当たる事がないの」
「酷いと言えばなっちゃんだって相当なもんだよ」
「私は大丈夫よ」
「あのさ、差し出がましいとは思うんだけど」
「なに?」
「ウルフは多分入院して見てもらうことになると思うから、なっちゃんウチにこない?」
「え? そんな大丈夫よ」
「こんな状態で置いて帰れないし、食べなければ元気になるどころじゃないよ」
「でも、ご家族がいらっしゃるのに」
「だからだよ、誰かしら君の様子がみれるでしょ? もし城田が嫌なら僕のウチにきてもらってもいいから」
そんな話をしていると、光輝が入ってきた。
「今、高濃度の酸素の箱に入っているけど、あのまま入院させたほうがいいみたいだから連れてってもらったよ」
「え?」
夏子は心配そうに光輝を見た。
「兄貴は移動動物病院をしてるけど、実家は大きい動物病院だから大丈夫だよ。いずれにしても詳しい検査しないとなんないだろ」
ウルフと離れるのは身体が二つになるくらい苦しいが、夏子には反論する体力が残ってなかった。
「よろしくお願いします」
「光ちゃん車できたの?」
「あ? ああ」
「なっちゃんうちに連れて行こうと思って」
光輝は夏子をチラリと見た。
「ああ、一緒に行こう」
* * *
「まぁ夏子さん、大変だったわね」
早苗が泣きそうな顔で出迎えた。
「叔母様……ご迷惑お掛けします」
「何言ってるの、客間支度してあるからそのまま横になりなさい」
光輝と桔花に支えられて夏子は客間のベッドに入った。
「少し眠っても何も食べられなかったら、なっちゃんも病院行こうね」
「桔花ごめんね。ありがとう」
立ち上がろうとする桔花に言った。
リビングに戻った桔花と光輝はドッカリとソファに座り込んだ。
「なかなか疲れたな……で?」
光輝が桔花に詰め寄った。
「でって?」
「俺放っておけって言ってったよな!」
『ああ、それで怒ってたのか』
「ごめんなさい。でもやっぱり知ってしまった以上は放ってなんておけないよ」
「きっちゃんのせいじゃないだろ。でもさぁ……まぁいいや。検査結果出たら連絡くれるように言ってあるから。夕方でも面会に行ってみるか」
「病院ってどこなの? っていうか光ちゃんにそんな友達いるなんて知らなかった」
「は? 凛だよ。何度もここに来てんだろ」
尚輝と光輝がピッタリ護衛をしているにもかかわらず、桔花に会いにしつこく遊びに来ていた光輝の友達だ。
「え? 凛くんち動物病院なんだぁ。知らなかった。じゃあ凛くんも?」
「あいつは獣医師になったばっかりだから親父さんの病院で修行中だよ」
「へぇ すごーい」
「何呑気なこと言ってるんだよ。俺戻るけど大丈夫?」
その時光輝の携帯電話がなった。
「親父だ」
将輝からのメールだった。
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