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「パパ何だって? 早く戻れって怒ってる?」
「親父がきっちゃんの用事にケチ付けるはずないだろ……今日はもう戻らなくていいって。あとエマの住所わかったって」
「え、何でパパが?」
「きっちゃんの電話の後すぐ調べてくれるように頼んできたんだよ」
「そんな個人情報どこから……」
「あー、ウチは芸能界にも顧客が多いんだよ。親父はあっちこっちに安く宝石売って恩を着せてるからグレーな情報がすぐ手に入るんだ」
光輝は鼻の頭を人差し指で掻きながら言いづらそうに言った。
「そうなの?」
「きっちゃんにはデレデレだけど、あれでなかなか怖い存在なんだぞ」
「知らなかった……」
「だからさ、兄貴のことも本気になったらすぐ調べられたけどしなかったんだ。この意味わかるだろ?」
「パパは初めから尚くんの好きなようにさせるつもりだったんだね」
「わかりにくいオッサンだよな」
「フフ 光ちゃん口悪いよ」
「さて、こっちはどうするかな」
光輝はスマホをプラプラ弄んだ。
「その住所に恭平さんがいるとしても僕が行って会わせてくれるとは思えないよね」
「ああ、向こうの社長がスペア持ってるから、一緒に行ってくれるってよ」
「そんな事頼んでいいのかな」
「自分の所のモデルが問題を起こすのは困るだろ。前回薬盛ってきっちゃんを嵌めた奴だからな」
「光ちゃん……」
「そこに入り浸ってるってことはエマの勝ちだな。でも安住に会ってどうするんだ」
「どうって、このままでいいわけないじゃない」
「そんなのそれぞれの家庭の事情だろ」
「それでも……それでもこのままなんて駄目だよ。恭平さんウルフの事もなっちゃんの事も愛してるはずなのに、せめて現状は知っておくべきだよ」
「そうか……じゃあ明日行けるように頼んでみるよ」
「うん、ありがとう」
光輝はいつもフワフワしている桔花の確固たる決意を拒む事はできなかった。
夕方、目が覚めた夏子がリビングに顔を出した。
「桔花……」
「なっちゃん、具合どう?」
夏子の背中に手を添えてソファに座らせる。
「うん、よく眠れたから身体が軽くなった」
「よかった。……さっきの獣医師さんから電話があってウルフ少し落ち着いて反応するようになったって」
「ほんと?」
「なっちゃんの身体がキツくなければ行ってみようか」
「うん」
「その前に何かお腹に入れよう。ママが温めるだけで食べられる野菜スープを作ってくれたけど食べられる?」
「ええ、多分」
桔花はスープを温めて夏子に食べさせた。
「おいしい……両親が引っ越してしまってからたまに外食する以外誰かに作ってもらった物を食べた事ないから……母を思い出してしまったわ」
夏子の瞳が潤んだ。
「そうなの? 気に入ったならママも喜ぶよ」
「これが幸せの味よね」
しんみり呟く夏子に桔花が聞く。
「ホントに何でこんなことに?」
「兄さん、桔花に振られてまた昔みたいにフラフラしだしたんだと思うわ」
「連絡もしないで何日もなんて。ウルフは彼の犬なんだよね?」
「でも実際世話してきたのは私だから」
何で夏子一人がこんな目に合わなくちゃならないのか。事の発端が自分だ
としても許せることじゃない。
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