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帰りの車の中、桔花は夏子に聞いた。
「さて、今度はなっちゃんの番だね」
「私?」
「なっちゃんは恭平さんに戻って欲しいの? それとも」
「私は……兄さんが今の状態で幸せならこのままでも……」
「そうなの? あんなに仲がよかったのに……」
少し間が開いて。
「でも……あ、ごめんなさい、嘘です」
「え?」
「エマ君が好きで一緒に住むからって出ていったならいいの。でもそうじゃないならやっぱり帰ってきてほしい」
桔花は下を向いて話す夏子頭を軽く撫でた。
翌朝、桔花は光輝とSHIROTAの本社へ向かった。
社長室に入ると、エマの事務所の社長という女性が既にそこにいた。
「初めまして、松田と申します。この度はご面倒をお掛けして申し訳ありません」
桔花が挨拶をするとその女は右手を差し出してきた。
「とんでもございません。城田さんにご連絡頂いてよかったです。ここの所エマが何度か仕事に穴を開けてどうしたものかと思っていた所だったので」
「エマさんお仕事行ってないんですか」
「来ても身が入っていないというか……。そんな事が許されるほどのキャリアも無いんですけどね。城田さんから家を教えるように言われたので私も一緒に行きます」
「社長さんが鍵を持ってらっしゃるんですか?」
「何かあった時の為に、いつもはマネージャーに持たせてます」
「今日エマさんは……」
「家にいると思います」
『彼に会うのは気が重いな』
桔花は自分から首を突っ込んだ事を少し後悔し始めていた。
* * *
エマのマンションに着くと、社長が鍵を開けて中に入って行った。
「あの、インターホンを鳴らさなくても大丈夫ですか?」
「ここは会社が住まわせてるマンションですから、彼に文句を言う権利はありません」 きっぱりと言い切って入っていく。
桔花と光輝はその後から付いていった。
中からテレビの音が聞こえてくる。
リビングに入ると、人の気配はなく更に奥に進むと恭平がテレビの前のソファで眠っていた。
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