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帰りの車の中で桔花は言った。
「今日はありがとうございました、とても勉強になりました。夏子さんにもお会いできて楽しかったです。あ、ウルフにも……」
「そう言って貰えたらよかったです。しつこくしてご迷惑ではなかったかと猛省中でした」
「迷惑だなんて……でも僕やっぱりマリッジリングは……ジュエリーの仕事は体調の良い時に一人でできるからやっているだけで僕に才能なんてないんです」
「ご謙遜を……それでもそれを結婚指輪にしたいという人がいるんですよ? どうしたら手に入るのかって私に泣きついてくるんです」
「誰かの一生に関わるなんてそんな怖い事できません」
「何があなたをそんなに臆病にさせるんですか」
恭平は肩を落とした。
「すみません」
「あ、すいません。私こそ不躾でした」
桔花は窓の外を見て、それ以上を語らなかった。
* * *
車中気まずい空気のまま門の前に車が着くと、スーツの上着だけを脱いだ光輝が目の色を変えて走ってきた。
突っ掛けが脱げて転びそうだ。
「きっちゃん!」
「なるほど、光輝くんがお出迎えですか。本当に社長のお宅に住まわれているんですね」
「安住さん、桔花を送って頂いてありがとうございました」
運転席を覗き込んで光輝が恭平に言った。
「いえいえ、私がお誘いしたんですから当然ですよ」
「あの少し寄って行かれませんか? このままお帰ししたらママ……早苗さんに叱られてしまいます」
光輝は反対側に回り車のドアを開けて桔花の手を取った。
その様子見て恭平が言った。
「急なので今日は失礼します。また改めて……」
すると早苗が家から出てきた。
「何を騒いでいるの?」
それを見て恭平は急いで車から降りた。
「初めまして、安住と申します。今日は急遽桔花さんにお付き合いいただきまして」
「主人から聞いていますよ。桔花がお世話になりました。どうぞお茶でも飲んでらして」
恭平はその横で憮然として立つ光輝を見て言った。
「いえ、今日はもう遅いのでここで、また改めてご挨拶に伺います」
車に乗り込む恭平に桔花が言う。
「安住さん、夏子さんの出来上がったらどうしたらいいですか?」
「あ、じゃあここにお電話いただけますか、携帯の方は私直通なので」
名刺を渡す。
光輝はその動作を目で追った。
「わかりました」
「桔花さん、私はまだ諦めてませんからね。またお誘いします」
「……」
そう言って恭平は去って行った。
「何だよ、ご挨拶って。結婚でもするつもりかよ」
光輝の怒り心頭の光輝が言う。
桔花はスタスタと家の中に入って行き「あー疲れた」と伸びをした。
「きっちゃん何であんなヤツの所に行ったの? 名刺なんて貰っちゃって。何だよその花」
「何でって、パパが社長命令だって言うから。取引先でしょ? 断れないじゃない。ママこのお花活けて」
「はいはい」
早苗はそれを受け取った。
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