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噛みつかれた様な痛みが走った。
それは荒れる吹雪のもので、私はたまらず目が覚めてしまった。
いや、今、深い眠りに堕ちた所なのかも知れない。
「ここは……」
掠れた男の声が一つ。私が呟いた。
上手く声が出ない。
喉に霜が降りたせいか、はたまた生まれて初めての発声だからか。
私はいったいどうしてしまったのか?
「部屋……の中なのか?」
そうか、どうりで暗すぎるわけだ。
何かから守る様に私を囚えるこの四方形の部屋の中で、私と暴風雪は二人ぼっちだった。
額縁代わりの窓などなく、あるのは天井から垂れるランプのみ。
それも吹雪に揺られ、今にも消え入りそうだ。
私は、その部屋の隅でうずくまっている。
「寒い…………寒いな……」
異常事態に身を包まれながらも、私はそれが不思議と心地よく感じてしまった。
このまま雪に埋もれていくのも悪くない。
生きることをやめても良いのかもしれない。
私は。
「起きて……」
「…………?」
誰かの呼ぶ声がした。
泣きたくなるぐらい暖かい声色の彼女。
誰だ?
思考するより先に、私はその声に手を引かれた。
暴風雪をかき分け、鈍色に輝くドアノブへと進む。
唯一の出口。
私は生きたいのか?
私は生きているのか?
マリオネットのように歩く。
その先に何があるのか。分からない。
思考は、この暗い部屋の空に吹き上げられた。
進む。
兆しへ。
恐ろしく冷たい。
ドアノブに手を掛け。
私は開けた。
瞬間。
私は再び生き始めた。
「おはよう」
「……寒いな」
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