生まれ変わる

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 気がついたらやばい場所にいた。  どうしてこんな場所にいるのかわからないが、やばい場所にいた。  俺の周りには結構人がいたがみんな怪我をしている。服はボロボロだし血を流している。中には手がなかったり足がなかったり頭が半分なかったりする人もいた。  あまりの状態に呆然としていたが、ふと気づいた。もしかしてハロウィンのゾンビの仮装? あまりにもリアルな出来栄えだ。あれ? と思い見ると自分の体も同じようなものだった。  手足が変な方向に曲がって血が流れている。これでどうして立っているのか わからないが、仮装だと思ったせいで怖くはないが不安になってくる。なぜ自分はこんなところにいるのだろうと。  話を聞こうと右側の人を見ると顔が血まみれの女性で、ちょっと話しかけづらい。  左の人を見ると頬に擦り傷があり少し怪我した程度の男性だったので、その人に何と言って声をかけようと考える。俺の視線を感じたのか男性がこちらを向いた。思わず叫びそうになるのを飲み込む。  その男性は左半分に大きな傷があった。俺はなんと声をかけていいのかわからず黙ったままでいると、男性の方から声をかけてきた。 「兄ちゃん、次の生まれ変わりはどこにするか考えているかい?」  兄ちゃんと言われるほど、二十代半ばの俺と年齢が離れているとは思えないが、重要なことではないので受け流す。 「生まれ変わりって何ですか?」 「え? 兄ちゃん、思い出してないのかい。この集合場所に来るとみんな思い出すんだがなあ。あー、その頭じゃ、しょうがないか」  男性の視線が俺の頭に向く。俺は自分で気がついていないだけで、頭を怪我しているのだろうか。「その頭」と言われるような怪我を……。確かめたいが怖くて頭を触ることができない。 「思い出せないんじゃ、しょうがないな。教えてやるよ。ここは生まれ変わり の順番を持つための、待ち合わせ場所なんだ。そのうちに神様だか仏様だかの 御使いが来て、生まれ変わらせてくれるんだ。生まれ変わらせてくれると言っても、今回の人生の徳によって生まれ変わり先は違うけどな。多くの徳を積んでいれば周りが羨むような生まれ変わりができるし、悪いことしてればそれに見合った生まれ変わり先だ。でも悪いことばっかしてたら、生まれ変わりの数を減らされるらしい。生まれ変われる回数の残りが多いと御使い様が割り振った生まれ変わり先だが、生まれ変われる残りの回数が少ないと個別に希望を聞いてくれる。まあ、希望を言っても自分の今回の人生の徳に見合ったところだけどね」 「生まれ変わりの回数がゼロになったらどうなるんですか」 「無の世界へ行くらしいぜ」 「無の世界ですか」 「そう。自分が何もなくなってしまうらしい」  隣の男性に教えてもらっていると、前方に光の塊が降りてきた。 「あれが御使い様だよ」  光の塊にしか見えない御使い様が手らしいものをあげると、周りから少しずつ人が減っていく。 「残り回数が多い順から生まれ変わっているんだよ。残り回数の少ない人はこの待合場所から別の場所に移されて、そこで御使い様と次の生まれ変わりの話ができるんだ」 「ずいぶん詳しいのですね」 「ああ、何十回もやってるからな。俺は生まれ変われるのがあと三回だ」  そんな話をしていると隣の男性が消えた。男性が話していた「別の場所」とやらに移されたのだろうか。  俺は? 隣の男性があと三回なら、俺はそれ以下ということだ。でも俺はこんな場所に来たことあったか? 全然覚えていない。そんなことを考えていたら、別の場所に移っていた。  光の塊――御使い様と対面して話をする。 「あなたの生まれ変わりはあと一回ですが、希望がありますか。あなたの今回の人生では、つらく苦しい人生を送る生まれ変わり先しかありませんが」 「そんな! 俺はそんな悪いことをした人生だったんですか」 「もう終わってしまったあなたの人生について、私からは何も言えません。言えるのはこの先のことのみです」 「じゃあ、生まれ変わり先の中で一番マシなところをお願いします」 「わかりました」  御使い様が手を上げると男は消えていった。  御使い見習いが声をかけてくる。 「お疲れさまでした。今のが例の男ですか。すごいですよね。生まれ変わりの回数を百回近く減らす人生送った人間なんて、初めて見ました。御使い様はどうですか。○○社ビル爆破事件の犯人ですよね。仲間もいないのにたった一人であそこまでの被害を出せるなんてすごすぎです。爆弾も自分で作ったんですよね、確か」 「私も初めてですよ、主義主張のない一般市民が生まれ変わりをあんなに減らすなんて」 「あの犯人、次で生まれ変わりがゼロになりますよね。そうすると無の世界へ行くのですか?」 「それは難しいですね。次の人生で今回の被害者より多くの人間を救うような ことをしないとね。さっきの待ち合わせ場所にいたのは、ほとんどがあの犠牲者ですから」 「じゃあ、あの男は……」  見習いは驚いた顔になる。噂でしか知らない……。 「無の世界ではなく苦の世界へ行くことになるでしょう。自分の与えた苦しみが自分に帰ってくる苦の世界。あの男は主義主張のない一般市民が苦の世界へ行くことになる初めての人間となるでしょう」  第二第三のあの男のような人間が現れないことを祈りつつ、御使いは去って行った。
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