君がこの世にいない未来

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消魂しく鳴り響く鼓膜を劈くような警笛の轟音が薄暗に佇む地下鉄のホーム内に木霊した。 金切り音に引き寄せられるように彼女は停車するため減速を始めた列車が突き進むレールの先に吸い込まれた。 右肩から砂利の敷かれた地面に打ち付けられ、レールの上に仰向けに落ちた彼女の瞳は僕の姿を映していたように感じた。 彼女の定まることを忘れた遠い眼差しの奥底からは筆舌に尽くしがたい絶望と悲観の表情が入り混じったドス黒い影を見据えた。 死が目前に迫っている彼女の瞳を僕は声も上げることもできずに呆然と、ただ茫然と見つめることしかできなかった。 僕らの最初で最後の以心伝心。 永遠にも感じられたその一瞬は迫りくる重苦しい鉄の塊な無慈悲な直進よってあっけなく引き裂かれ永遠の終わりを迎えた。 にちゃにちゃと軋んだ音を立てて停車した列車。 乗車待ちをしていたホームの人々から絶叫は鼓膜をキリキリと震わせただけで、そこから生まれる感情は一切無かった。 僕は取り返しのつかない現実に打ちのめされ、暫くの間、只々呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。 その後の事は余りはっきりとは覚えていない。只思い出せるのは線路上で赤白い肉片をかき集める必死な駅員の姿と、仄かに漂う鼻を付く生臭い臭気だけだった。 その日から僕の時間を刻む歯車は動くことを完全に放棄した。
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