8人が本棚に入れています
本棚に追加
タクシーが止まっていた。
まるで私を誘うように、後部座席のドアが自動的に開かれる。
私は周囲を見回したが、私以外に人の姿はない。誰かが呼び止めた、というわけでもなさそうだった。
(お客さんも乗ってなかったし、どうしてここに? 駅前ってわけでもないのに……)
乗っていいのだろうか。さっきよりも雨脚が強くなってきたし、できれば乗りたい。
どうすればいいのか迷っていると、運転席の方から「どうぞ」と静かな男性の声が聞こえてきた。
「あ、はい!」
ここで断るのも失礼な気がして、私はあわててタクシーに乗り込んだ。
運転手さんは、すこしだけこっちに顔を向けてくれたけど、後ろからじゃよく見えなかった。
「どちらまで行かれますか?」
「あの、西方動物病院ってわかりますか?」
「ええ、わかりますよ」
「じゃあ、その近くまでお願いします」
「かしこまりました」
私はちらっとルームミラーに映る顔を見た。
若い男性に見えるけど、やっぱりよく見えない。
最初のコメントを投稿しよう!