心霊タクシー

1/9
前へ
/9ページ
次へ
 タクシーが止まっていた。  まるで私を誘うように、後部座席のドアが自動的に開かれる。  私は周囲を見回したが、私以外に人の姿はない。誰かが呼び止めた、というわけでもなさそうだった。 (お客さんも乗ってなかったし、どうしてここに? 駅前ってわけでもないのに……)  乗っていいのだろうか。さっきよりも雨脚が強くなってきたし、できれば乗りたい。  どうすればいいのか迷っていると、運転席の方から「どうぞ」と静かな男性の声が聞こえてきた。 「あ、はい!」  ここで断るのも失礼な気がして、私はあわててタクシーに乗り込んだ。  運転手さんは、すこしだけこっちに顔を向けてくれたけど、後ろからじゃよく見えなかった。 「どちらまで行かれますか?」 「あの、西方(せいほう)動物病院ってわかりますか?」 「ええ、わかりますよ」 「じゃあ、その近くまでお願いします」 「かしこまりました」  私はちらっとルームミラーに映る顔を見た。  若い男性に見えるけど、やっぱりよく見えない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加