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峠までは登り道なので、さすがに途中で何度か休憩し、再び駆け出すことを繰り返した。
何やら怒鳴る声が聞こえたのは、峠を越えて最初の曲がり角だった。続いて女性の悲鳴が聞こえた。
あまりにも想像していたとおりの展開に、シシンは舌打ちをして、さらに足を速めた。
曲がり角の手前で止まり、息を凝らしながら、様子を覗った。
夫婦は跪いて、追い剥ぎを拝んで許しを請うている。
その先には追い剥ぎが三人いた。
一人が夫婦を蹴り倒すと、夫の方に馬乗りになって、拳を振るい始めた。別の一人は妻の方に伸しかかり、嬲りものにしようとしている。
その様子を、頭目らしき髭面の中年が下卑た笑みを浮かべて眺めている。
シシンは剣を手にすると、相手に気づかれないうちに先手を打つ作戦に出た。
滑るように前に出ると、得意の遠間から剣の突きを繰り出した。
頭目がシシンに気づいたときには、剣が心臓を刺し貫いていた。声を上げる間もなく、頭目は目を剥いて、絶命した。
シシンが剣を引き抜くために頭目を蹴り倒すと、血しぶきが噴き上がった。
その音で、夫婦を襲っていた追い剥ぎの二人が、シシンの存在に気付いた。
「だれでぇ! お前は!」
「お、お頭!」
シシンは、相手が向かって来るより先んじて肉迫した。
片割れの首筋を断ち、からだを旋回させて、残るひとりに斬りつけた。
キィーン!
鋭い金属音が響いた。
追い剥ぎは手に持った剣を抜いて、シシンの斬り込みを弾いたのだ。
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