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あい席の連中はシシンの武勇伝にしきりに感心し、夫婦連れの夫の方が調子よく相づちを打った。
妻の方はシシンのからだにしな垂れて、酌をしている。夫は妻のそのような姿を見ても嫉妬した風もない。
シシンは、酒がほどよく廻りはじめて、さらに饒舌になっていった。
先ほどの剣士も宴席にいたが、シシンの声が酔うほどに大きくなる頃には、姿を消していた。
その後も、シシンは修行の苦労話や全国剣術大会のときの模様などを語り続け、その夜は更けていった。
「もし、もし、シシンさま、起きてくださいな。こんなところでお眠りになりますと、お風邪を召しますよ。ささ、お部屋へ――」
夜も更けて、さすがに宴会も自然とお開きになっていた。
シシンは、熟し柿臭い息を吐きながら、卓の上にうつ伏している。
夫婦連れの妻の方が、先ほどからシシンの肩を揺すって、起こそうとしていた。
「うう……。ここでよい……。俺は、ここで寝るぞ……」
夫の方は、完全に酔い潰れたシシンの腕を肩に担いで立ち上がらせようとするが、体格がしっかりしている上に体重もあって、かなり手こずっていた。
宿屋の主人が、卓の上に散らばっていた食べ残しや酒瓶などをようやく片付け終わって、奥の厨房から出てきた。夫婦がシシン相手に悪戦苦闘しているのを見て、自分も手伝おうとして近づいた。
そのとき――、
「うぉらぁ! 子分を殺ったのはどいつじゃぁー!」
玄関の扉が破壊される音に続いて、怒鳴り声が響いた。
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