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食堂からは玄関の方の様子が見えないので、玄関続きの広間を荒らす恐ろしい音だけが届いてくる。やがて、多勢の男たちが大声をあげながら食堂になだれ込んできた。
男たちが野盗の類いだと判ると、シシンに構ってはいられず、夫婦連れも主人も壁際に逃れ、縮こまった。
「俺の子分を殺ったのは、何奴じゃぁ!」
親分らしき厳めしい大男が食堂の中を睥睨した。
「こいつです! こいつが殺りました!」
そう叫んでシシンを指さした男を見て、夫婦が驚いた顔をした。
男は峠で逃げていった追い剥ぎだった。
「ふん、こいつか! 引き摺り出せ!」
シシンは野盗たちに両腕を掴まれて、宿屋の外に曳かれていった。
食堂に残された三人は、食堂の戸口から、恐る恐る玄関の方を覗った。
しばらくすると、表通りの方から袋のようなものを叩く鈍い音が聞こえてきた。
「――おい、獲物を横取りされて残念だったな」
突然の声に驚いて、夫婦が振り向くと剣士が立っていた。峠から宿に戻ったとき、宿帳に記帳していた剣士だった。
剣士は夫婦に視線を据えて、鋭く言い放った。
「山猫のバラクと白狐のリン、神妙にしろ!」
突然身元をばらされて、二人の顔つきが一転して、凶悪になった。
「ちッ! 貴様、何者だ!」
そう罵る声音も、先ほどの野盗と同類であることを思わせた。
「わたしはな、王都守護庁のイカルよ」
剣士はそう名乗った。
「げっ! 剣聖の――!」
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