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最後まで言い終えることなく、懐に飛び込んできたイカルに、バラクは胸の急所を打たれ、リンは首筋を手刀で打たれて、気絶した。
床に転がった二人をイカルは手慣れた手つきで縛り揚げ、「おい、ご主人、すまんがこいつらを見張っててくれ」と主人に頼んだ。
「い、イカル様。この者たちは……?」
宿屋の主人もイカルの名を知っていた。
ただ、イカルの名は、王都守護庁長官代理であるよりも、剣聖としてのほうが有名だ。
イカルの家は王家を守る準王族として侯爵位にある貴族であった。
王都守護庁は王都の守護だけでなく国内の治安を司る最高機関であった。その長官代理であるイカルは御光流剣術と出会い修練を重ねるうちに、『剣聖』と称されるほどの達人になっていた。
「ああ、こいつらはな、弱者を装って人の懐に深く入り込み、殺しや盗みを働いていたお尋ね者よ。つい最近、王都でな、商人一家を惨殺して逃亡したのを追っていたのだ。捜査のため宿帳には偽名を書かせてもらった。すまなかったな」
イカルの話を聞いて、主人は、なぜ夫婦が旅路を急いでいたのか判った。
「いえいえ、そのような些細なことはお気になさらず。お勤め、お疲れ様です」
「それとな、夕刻に王都の方に遣いをやったので、もうすぐ、治安部隊が到着する。受け入れを頼む」
そう言い置くと、イカルは表に出て行く素振りを見せた。
「イカル様、相手は大勢で危険でございます! 治安部隊のみなさんが到着なさってからのほうが……」
主人が必死でイカルを止めようとした。
「いや、あいつがそこまで保つとは思えない。助けに行ってくる」
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