剣聖伝説 - 剣の誓い -(外伝2)

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 イカルはまるで散歩に出かけるような調子で言うものだから、主人は強く止めることができなくなった。 「どうぞ、ご無事で……」  そう案じてくれた主人に、イカルは片目を瞑ってみせ、宿を出て行った。  ――俺は、このまま死ぬな…………。  朦朧とする意識の中で、シシンは死を感じた。  それでも頭だけは腕でしっかりと守って、地面に転がっていた。殴る蹴るの暴行を受けているが、すでに痛みを感じてはいない。  ――いや、これは酒で酔っているせいか……。  そのようなことを漠然と考えた。いずれにしても、この状態で反撃などできるはずがなかった。  腹に相手のつま先が食い込んで、息ができなくなった。  ――くるしい……。  苦しいから、まだ生きていると感じられた。  吐き気がして、胃の中の物がこみ上げてきた。  吐瀉物が足にかかったと吠えられて、さらに蹴られた。  蹴ってきた相手の脚を両腕で抱え込んだ。  ――どうせ死ぬなら、せめて一人だけでも道連れに……。  なけなしの気力を振り絞って、脚にしがみつく。  無防備になった頭を何度も殴られた。  ――そんなもんじゃ、効かないよ、俺は石頭なんだ……。  どうでもいいことしか思い浮かばなかった。  しだいに、腕に力が入らなくなってきた。  ――もう……だめ、だな……。  シシンは頬に地面の冷たさを感じた。 「御光流、イカル! 参る!」  頭の上で声が夜空に響き渡る。  ――みひかりりゅう?  シシンは薄れゆく意識の中でその声を聞き、重い頭をもたげて、声の聞こえたほうに顔を向けた。  シシンの目に、キラリと光る剣が見えた。
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