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――ば、化け物か。
助けてもらっているのに、失礼な言い方だが、ほかに適当な言葉が思い浮かばない。
出し抜けに、「神妙にしろ!」「大人しく縛に就け!」と怒鳴る声が響き、大勢の足音が聞こえた。
――治安部隊か!
イカルの剣から逃れた野盗たちが地面に倒され、次つぎに縛り揚げられていくのが見えた。
シシンが首を上げているのも辛くなって、頭を地面に下ろしたときには、捕り物もあらかた終わっていた。
シシンのほうに足音が近づいてきた。
手前で止まると、跪いて覗き込む気配があった。
「おい、大丈夫か? 医者が必要か?」
シシンは仰向けになると、薄目を開けて、声の主を見た。
「ふふっ、御光流のイカルか……。勝てる訳ねぇ……」
「お前、今回の全国剣術大会で優勝したらしいな。たいしたもんだ」
「優勝だぁ? これを見ろ、ざまぁねぇぜ。ただの酔っ払いさ」
「御光流の修錬場にも行ったのだろう? 師範から連絡があった」
シシンが頷いた。
「剣の筋は良いが、迷いがある。それを払拭できれば大成する――、と。あの師範の人を見る目は確かだ」
そのように自分に語り掛けるイカルのことを、シシンは知っていた。
王都守護庁の長官代理――イカル。
「御光流のあんたは、その剣術でいったい誰を守っているんだ?」
シシンの問いに、イカルは考える様子も見せず、「自分だな」と即答した。
「おいおい、笑わせるな」
シシンは、込み上げてきた笑いでからだが痛み、身を捩った。
だが、ちらりと見たイカルは真顔だった。
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