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「なぜ?」
「んー。何というか、俺たちがやっている剣術とは、本質的に違う気がするんだよな」
「はぁ、それじゃあ、御光流は剣術じゃないのか?」
「いや、剣術なんだけどよ。うーん、上手く表現できないなぁ……」
剣士の声は次第に小さくなっていく。
「ますます興味が出てきた。俺は行くぞ!」
「あー、もう! 勝手にしろ!」
剣士はそう言い捨てるとシシンを置いて去って行った。
――優勝したというのに、なぜ俺はこんなに空虚なんだ……。
シシンは控室で独りつぶやいた。歓声も祝福の言葉も、彼の心には響かなかった。
シシンは常に「真の強さ」を追い求めて幼少期から過酷な修行を重ね、若くして己の名の韻を踏んだ『四神流流剣術』を編み出した。
その裏には亡き父の影響があった。
父は名もなき剣士であった。
練達の剣士でありながら、無名のまま果てた父の教えが、シシンの心に深く刻まれている。
「待ってろよ、御光流!」
そう叫ぶように言うと、シシンも控室を後にした。
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