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シシンは地元に帰ると、まず手始めに、近場にある御光流の修錬場を探し出して尋ねて行った。
この街の御光流の修錬場は、古びた倉庫を改装したもので、壁には弟子たちの遣う武具が掛けられていた。床板は長年の稽古で磨り減り、窓格子から入る陽光を鈍く照り返している。
ここに比べれば、他流派の修錬場の方がはるかに立派だ。
これから剣術家を目指す者が、修錬場を雰囲気だけで入門先を選ぶならば、御光流を選択肢には入れないだろう。それほど粗末な修錬場だった。
倉庫の修錬場で稽古している門弟は、この街の治安部隊の隊員に混じって、庶民の姿も見えた。
みんなが、和気藹々とした雰囲気の中で、汗をかいていた。
斜に構えて訪れたシシンは、いささか拍子抜けした。
「おや、ご興味がおありですか? どうぞ中にお入りください」
門弟のひとりが、窓から中の様子を覗っていたシシンに気づいて、声を掛けてきた。
「えっ、よいのか?」
これほどすんなりと中に入れてもらえることも、予想外だった。武術の流派にありがちな警戒感というものが微塵もない。
――これも自分たちが最強だという余裕だろうか?
シシンは、このように考えることで納得しようとした。
「今日はご見学ですか?」
「いえ、できれば仕合をお願いしたい」
シシンがそう申し出ても、相手の態度に変化はない。
「師範に確認しますので、少々お待ちください」
そういって、案内の弟子は、みんなに交ざって稽古していた中年の小太りの男に声をかけた。その男が師範のようだった。
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