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案内の弟子の言葉に頷くと、師範がシシンの元にやってきた。
「仕合をご希望されていると伺いましたが……」
「わたしはシシンと申します。過日の全国剣術大会で優勝いたしました」
シシンは挨拶もそこそこに、いきなり本題に入った。
「はぁ。それはそれは、おめでとうございます」
師範の全国優勝者に対する社交辞令じみた反応に、抑えていた不満が爆発した。
「しかしながら、仕合には、御流儀の出場者が全く見あたらなかった」
「……はい」
「御流儀は国中に多くの門弟を抱えていらっしゃるのは存じておる。剣聖と呼ばれる巧者がいるのも、な。それほどの名門であるにもかかわらず、なぜ、ひとりも全国大会に参加されないのか――」
「それと雌雄を決しないうちは、自分は頂点に立っていると思えない、と、そう言うことですかな?」
「――いかにも」
シシンの返答に、師範は困った顔をした。
「うーん、なんと申し上げてよいものか……。まず、当流儀はご宗家のお許しがない限り、大会のような仕合にでることはございません」
「なぜ?」
「さぁ、ご宗家のお考えまでは判りかねます。わたしたち弟子たるもの、ご宗家が駄目というならば、それに従う以外に選択肢はございません」
「まぁ、俺も流儀を研鑽する者、判らぬこともないが……」
「とはいえ、望まれた仕合を拒むほど、排他的ではございません。仕合の件については引き受けましょう」
「いますぐでも、よいのか?」
「ええ、シシン様がよろしければ」
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