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シシンがその手を取って立ち上がった。
お互い礼を交わした。
二人が修錬場の中央から窓際の方に移動すると、何事もなかったかのようにもとの稽古に戻った。
「羅秦国の中でも比較的規模が大きいこの街で、師範は修錬場を任されておいでだ。そうすると、師範は、御光流のなかでもかなり上位の遣い手なのでは?」
シシンはこころのなかで、自分が負けたと思っている。ならばせめて、今回相手をして貰った師範には、御光流のなかでも名のある剣士であってほしい。
「いえいえ、わたしなどは、師範の中でも出来の悪い方です。あまりこのようなことを言いますと、わたしを師範にしてくださった御宗家を悪く言うことになりますので、これ以上は申しません。ですが、本当のところは師範の免状を返上したいほど、重いものを背負っていると感じています」
「しかしながら、俺は自分の突きがかわされて、突きで応じられるとは思っていなかった。あのような技は、並大抵の修練でできることではない」
「御光流は、相手に対して光の速さで応じる剣です。攻守同時を基本としています。また、一人を相手にするのではなく、常に複数人を相手にしている気構えを教え込まれます」
シシンが頷いていると、師範が続けて言った。
「それに、御光流の教えの第一は、自分にとって大切なものを守ることです。言い換えれば、ほかの誰かのために、己が強くあること。勝負事で強いのが目的ではありません。ですから、大会に出て優劣を付けることを禁じているのだと思います」
「俺には、判らん。己が誰よりも強いのが第一ではないのか?」
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