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男が去ってから数分も経たないうちに、Sさんがコンビニのビニール袋を提げて戻ってきた。
「飯、買ってきたぞ」
暢気な声にKさんは我にかえった。
「Sさん、今、お客様がいらしてて……。先ほど帰られたんですけど、ここに来るまでに会いませんでしたか」
「客? 俺にか」
「はい。男の方で、カーキ色のつなぎ着た人だったんですけど。今さっき出ていったんですが、その辺で会いませんでしたか」
「いや? それに、誰とも会う予定なんてないぞ。っていうか、こんな時間に会いに来たのか」
Kさんもそれが不思議だった。
もう就業時間は終わっている。なぜ、あの人はSさんがここに――会社にいるとわかったのだろう。ここに来る前に、Sさんの家にでも寄ってきたのだろうか? それで留守だったので、当たりをつけて会社にやってきたのだろうか……。
「それで、誰だったんだ?」
「いえ、それが、名前は聞けなくて。でも、Sさんの知り合いみたいでしたよ。Sさんに届けたいものがあるんで、わざわざ来たみたいなこと言ってました。渡せばわかるからって。俺、預かったんですよ」
Kさんは、Sさんのデスクの上に置いておいた段ボール箱を指した。
「はあ? なんだあ、これ……」
Sさんは訝しそうに首をひねっていたが、突然はっと息を飲んだ。みるみる顔色が土気色になり、持っていたビニール袋が落ちて中身が飛び出した。
「Sさん? 大丈夫ですか」
SさんはKさんを睨み付けた。土気色だった顔が、いつの間にか真っ赤に染まっていた。ぎょっとすると同時に、Kさんは胸ぐらを掴まれていた。
「てめえ! なんで受け取った!? なんで勝手なことするんだよ! あああ、ふざけんじゃねえ! なんで勝手にッ……追い返せよ! そもそも俺に連絡しろよ!」
「ちょっと、なんなんですか!?」
Kさんは驚いて、Sさんの手を振り払った。再度掴みかかってくるかと身構えたが、Sさんは頭を抱えてしゃがみこみ、苛立ちと恐れの入り混じったような唸り声をあげた。
「なんで、なんで、対策してたのに……なんで……ああああ……」
およそ尋常ではなかった。Kさんは思わず後退りした。
Sさんは頭を抱えて唸ったり、意味不明な言葉をぶつぶつ呟いては奇声を上げたりした。
Sさんはしばらくそうしていたが、おもむろにガバッと顔を上げた。息は荒く目は充血して、一気に老け込んだように見えた。
「Sさん、大丈夫ですか」
恐る恐る声をかけると、Sさんはぎょろっとした目でKさんを見上げた。
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