選ばれしエース

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選ばれしエース

 8月2日、午前10時。  官邸の執務室に、秘書官の声が響きわたった。 「総理、読神巨虎(よみしんきょとら)軍の川夏(かわなつ)選手が到着いたしました」  ソファに座る総理の小曽根は険しく頷き、秘書官にその彼を通すよう言った。  間もなく、スーツ姿の野球選手、川夏が入室してくる。 「失礼いたします。読神巨虎軍の川夏卓豊(たくほう)です。本日は大任を仰せつかり、胸が一杯です」  小曽根はまた頷き、ソファに彼を促した。 「堅苦しい挨拶は抜きで。楽に過ごしてくれたまえ。川夏君は、ニュースは見るかね。これはゴシップとは違う。外交の問題だが、都市伝説的でもある」  川夏は少し困惑顔だ。 「はあ。秘書官さんからお話は聞きましたが、自分なりに調べてみて、やはり今回のこのお話は都市伝説的であると思うしかありませんでした」  小曽根は秘書官に指図し、直径23zmの白球を持ってこさせた。 「都市伝説ではなく、れっきとした同盟関係にあるのだよ。我が星と『地球』という惑星は。だがその惑星の住人⋯⋯いや、地上に住む蛮族どもはどうでも良いのだがね、地底に住む真正の地球人がね、困っておるのだ。地上の蛮族どもが傍若無人に振る舞うために、地球全体が暑くなりすぎ、地底に住む真正の地球人たちが熱中病なる命の危険を伴う病に冒されてしまってね」  川夏は目の前の白球を見つめる。 「つまり、地上に住む蛮族を排除して、真正の地球人を救うプロジェクトというわけですか」 「そうだ」  小曽根は白球を手に取り、それを握った。 「地球の地上に住む蛮族は、自分らさえ良ければ良いとする我儘放題な種族だ。それによりCO2という厄介なものを吐き出し、地球を温暖化に導いた。まあその結果、蛮族らも暑さに苦しむことになったが、それは自業自得なのだ。今回のプロジェクトは、地球を一気に寒冷化させるものでね。食物連鎖の頂点にいると勘違いしている蛮族どもは、寒冷化に伴い個体数を大幅に減らすだろう。当然、蛮族どもに食われていた生体も激減するが、我々が守るべきは地底に住む真正の地球人だ。彼らを熱中病から救い出すために、必要な犠牲はやむを得ない」  小曽根は話の佳境だと言わんばかりに語気を強めた。 「この直径23zmの白球を、隕石に見立てて地球に届けたい。そうすれば地球に大量の塵が発生し、太陽光が届かなくなって地球は寒冷化する。我が星から地球までの距離は1000ym。豪速球で知られる川夏君の投げた白球なら、地球の猛暑とされる8月中に届くはずだ」
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